失恋クラブの仲間ケラーニや同僚スティーヴ・レイシーとの共演

〈失恋クラブ〉の仲間もいる。これまでも失恋をテーマにした曲を歌ってきたケラーニだ。同性愛者であることを公言し、セクシュアリティーの面でも感情を共有するこのふたりは、ケラーニの新作『Blue Water Road』(2022年)でも“Get Me Started”で共演していたが、本作では“Out Loud”を一緒に歌っている。Gクープが手掛けたこれは、ダニエル・シーザー & H.E.R.の“Best Part”(2017年)をお手本にしたようなオーガニックなスロウバラード。〈私があなたのために何をしたかみんなに言ってみてよ、大声で〉というリリックからは断ち切れない未練のようなものが伝わってくると同時に、その曲調や音色、シドの温かみのあるボーカルからは癒しも感じられる。

『Broken Hearts Club』収録曲“Out Loud (feat. Kehlani)”

ダニエル・シーザー & H.E.R.の2017年のシングル“Best Part”

アルバム後半もドラマティックだ。クルアンビンの“White Gloves”(2015年)を引用してフリースタイルの歌を乗せた“Heartfelt Freestyle”では、即興のボーカルによって感情が生々しく伝えられる。また、ジ・インターネットの同僚であるスティーヴ・レイシーがプロデュースした“BMHWDY”(=Break My Heart Why Don’t You)では、グリッティーにして滑らかなトラックにエコーの効いたシドの声が乗せられ、ちょっとした恍惚状態へと導く。恋の終わりを淡く消えゆくような声で表現した“Goodbye My Love”がエピローグとなり、もう戻れない場所に来てしまったふたりを歌う“Missing Out”で迎えるエンディングも美しい。

『Broken Hearts Club』収録曲“Heartfelt Freestyle”

クルアンビンの2015年作『The Universe Smiles upon You』収録曲“White Gloves”

『Broken Hearts Club』収録曲“BMHWDY”

 

失恋を受け止めて歌う力強さ

切なさと希望が綯い交ぜになったアルバム。失恋が自分に必要だった通過儀礼だと悟り、その事実を受け止めて歌うシドは力強くも見える。シンガーとしてもスケールアップしたことが、今夏開催される〈フジロックフェスティバル〉でのパフォーマンスやジ・インターネットでの活動も含めて、今後どれほど発揮されていくのか。そう思わせるほどのポテンシャルが本作からは感じられる。

記事で言及された楽曲を選曲したプレイリスト

 


RELEASE INFORMATION

SYD 『Broken Hearts Club』 Columbia(2022)

リリース日:2022年4月8日
配信リンク:https://Sydsmji.lnk.to/BrokenHeartsClub

TRACKLIST
1. CYBAH (feat. Lucky Daye)
2. Tie The Knot
3. Fast Car
4. Right Track (feat. Smino)
5. Sweet
6. Control
7. No Way
8. Getting Late
9. Out Loud (feat. Kehlani)
10. Heartfelt Freestyle
11. BMHWDY
12. Goodbye My Love
13. Missing Out 

 

LIVE INFORMATION
FUJI ROCK FESTIVAL ’22
2022年7月29日(金)、30日(土)、31日(日)新潟・湯沢 苗場スキー場
※シドは7月29日(金)に出演
https://www.fujirockfestival.com/

 


PROFILE: SYD
本名、シドニー・ベネット。92年、米カリフォルニアはLA生まれ。若かりし頃にはレコーディングエンジニアを目指していた母親と、音楽好きだった父親、さらにはジャマイカのキングストンに自身のスタジオを構えるレゲエミュージックプロデューサーの叔父と、音楽愛に溢れた家庭に育つ。14歳のときにノートPCを手に入れ、プリインストールされていたGarageBandでトラックを作り、兄のラップを録り始めたことをきっかけに、音楽制作に目覚める。その後、Myspaceを通じてラッパーのタイラー・ザ・クリエイターと出会い、タイラーが中心となって結成したクルー、オッド・フューチャーのメンバーとして活動をスタート。2011年、同じくオッド・フューチャー周りでサウンドプロデュースなどを行っていたマット・マーシャンズとともにジ・インターネットなるプロジェクトをスタートさせ、同年の12月にはジ・インターネット名義のファーストアルバム『Purple Naked Ladies』をリリース。2015年、ジ・インターネットとして3作目のアルバム『Ego Death』を発表。バンド編成となり、従来よりもよりネオソウル、そしてファンクの香りを纏ったこの作品は、見事2016年にグラミー賞にて〈ベスト・アーバン・コンテンポラリー・アルバム〉にノミネートされた。また、シドは同時期にオッド・フューチャーの脱退も発表。2017年2月、満を持してデビューソロアルバム『Fin』をリリース。ロバート・グラスパーや6LACKなど豪華ゲストを迎えて制作され、ジ・インターネットでみせたジャジーでメロウなソウル/R&Bサウンドと妖艶なボーカリゼーションは継承されつつ、ソロではよりヒップホップ要素の強いビートとクールかつソリッドなメロディーでジ・インターネットとは一味違った個性的なサウンドを披露し、高い評価を得る。2017年5月、韓国出身のR&Bシンガー、DEANの“love”にゲスト参加、同曲のMVでも共演。2017年9月、3曲入りEP『Always Never Home』をリリース。2020年3月、米人気ラッパー=リル・ウージー・ヴァートのアルバム『Eternal Atake』にゲスト参加。2021年、“Missing Out”、“Fast Car”、“Right Track”と立て続けにシングルをリリース。2022年3月、ソロアルバムとしては2作目となる新作『Broken Hearts Club』を4月8日にリリースすると発表。同日に先行シングル“CYBAH (feat. Lucky Daye)”をリリース。2022年4月8日、セカンドアルバム『Broken Hearts Club』をリリース。