サンプリングネタとして愛されるサン『Sunburn』
――では、次に田之上さん。まず、ソウルとの出会いから教えてください。
田之上「親戚の影響で洋楽を聴き始めて、その時に録ってくれたカセットテープにマーヴィン・ゲイとエイジアとボブ・マーリーが入っていたのがキッカケですね。
高一の時に西新宿のレコード屋でスレイヴの“Slide”(77年)を聴いてぶったまげて、これはなんだ?と。それが入っていたアルバムはお店でまだ値段をつけていなくて売ってくれなかったんですが、ジャケットだけ見せてもらって、探しました。そこからファンクにどっぷりです。
その前からプリンスも好きで、ソウルを聴きながらロックも聴いて、後にソウルバーで働いて、ファンクやディスコにどっぷりハマっていきました」
――では、今回のシリーズからお気に入りの3枚をお願いします。
田之上「1枚目はサンの『Sunburn』(78年)です。

オハイオファンクが大好きで、(サンの分派でもある)デイトンとかも好きなので、その流れでサンも好きになって。サンプリングで使われていたり、ミックステープに入っていたりとかで、90年代によく聴いていました」

――サンは最初の頃、結構ゴリゴリのファンクもやっていましたが、このアルバムはAORっぽいライトな曲もあるんですよね。
田之上「そうなんですよ。これは3枚目ですけど、1枚目の『Wanna Make Love』(76年)はかなりゴリゴリの作品。でも、『Sunburn』では、シングルになった“Sun Is Here”は、ゴリゴリではあるけど(ポップで)ヒットを狙った感がある。
あと、やっぱり3曲目の“Dance (Do What You Wanna Do)”ですね。DEV LARGEがリミックスした、LUNCH TIME SPEAXの“(オマエもこの気持良さにやられちまいな)止マッテタマッカ -DL RMX-"(98年)のネタで、それもあって当時中古レコードで探していた人も多かったです」
――サンはメンバーチェンジを激しく繰り返したバンドとしても知られています。
田之上「リーダー(バイロン・バード)が独裁的な人だったんですよね(笑)。だからメンバーが頻繁に変わってて。このアルバムの時はメンバーが一番多かったんですよね」
――白人メンバーが増えたんですよね。地元のオハイオで録音されているけど、西海岸的なムードもあります。
田中学(タワーレコード新宿店)「時代的にフュージョンの流れの中で白人のミュージシャンが演奏者として入ってきたのかな」
河田「ジャケもいいですよね」
田中「そう。(水着を着た女性の)ジャケが今回一緒に再発される(ハミルトン・)ボハノンの『Summertime Groove』(78年)と似てる(笑)」

90年代渋谷のクラブを思い出させるジャクソン・シスターズ『Jackson Sisters』
――完全にソウルバーでの会話になってますが(笑)、田之上さんが選ぶ2枚目は?
田之上「L.T.D.の『Love To The World』(76年)と迷ったのですが、それと同じ年に出されたジャクソン・シスターズの『Jackson Sisters』にしました。

レアグルーヴと言いながら、いまやもうレアでもない超有名盤になってしまいましたが、自分(71年生まれ)の世代では本当に流行ったんですよね」
――“Miracles“(73年のシングルリリース時のタイトルは“I Believe In Miracles”)ですね。これは70年代というより、90年代の東京のクラブシーンを思い出す一曲。
田之上「まさに東京、しかも渋谷のクラブですね。
“Miracles”はボビー・テイラーと一緒に曲を書いたマーク・カパーニが歌った7インチ(74年)がノーザンソウル系のコレクターの人に発掘されて、2010年にジャズマン(UKのレーベル)が7インチで再発した時も話題になりました」
――アルバムはジョニー・ブリストルがプロデュースしたことが強調されますが、“Miracles”はヴァンクーヴァーズを率いたボビー・テイラーを中心に制作されているんですよね。
田之上「そうなんですよ。ボビー・テイラーはジャクソン5も手掛けていた人ですね。ジャクソン・シスターズもジャクソン5と同じで、お父さんが教育熱心だったんですよね。当時はスモーキー・ロビンソンの前座もやっていたみたいです」

――だから、ジャクソン・シスターズって、ジャネット、ラトーヤ、リビーのジャクソン3姉妹と勘違いされることがたまにあるのですが、こちらはコンプトン出身の5人姉妹グループ。アルバムはシングルの寄せ集め的な感じで、タイガー・リリーという胡散臭い税金対策レーベルでプレスされたものをポリドールが買い上げて今に至ると。
田之上「後から強引にアルバムを作った感じで、コンセプトはあまり感じられない。最初のシングルを73年に出して、76年に出たアルバムは当時あまり出回らなかったようですね。今では有名だけど、オリジナルのレコードを持っている人はほとんどいないですよね」
田中「再評価された時も、ブートっぽいレコードで出回ったんですよね。その時に先輩から〈オリジナル盤があるわけじゃない〉みたいなことも言われました。まだネットもない時代に人づてで広まったアルバムですよ。レアグルーヴの文脈で評価された“Miracles”はUKで12インチが作られましたよね」
田之上「どうしても“Miracles”ばかりが注目されがちですけど、“Boy, You’re Dynamite“とか、他の曲も聴いてほしいなと。アレサ・フランクリンの“Rock Steady”のカバーも入ってますが、こんなカバーがあったんだ!と意外に思う人もいるかもしれません」