闇深き節税対策レーベルが残した財宝の数々

 出回った数に反比例する内容の良さ、というのが〈レア・グルーヴ〉と見なされるための条件だとして、レコードが希少である理由というものは多様である。メジャー産であってもプレス数が少なかったり、全国流通に乗らないローカル・レーベル産であったり、そもそも特定のコミュニティーでのみ出回ったものだったり、学校などの団体が作った記念品だったり……ということで、近年はヒネリのある音源発掘も珍しくはなくなった。そんななか、体裁こそレコード会社の制作物ながら、意図的に売る気がなかったために希少性の生じた音源がある。それがいわゆる〈タックス・スカム=税金詐欺〉と括られる一群だ。

 現在ではタックス・スカムやタックス・シェルター(節税対策)と呼ばれるレーベルの動きは、主に70年代半ばに目立ってきている。当時の税法の抜け穴として、見込みがあるという設定の投資によって損失を被っただけ税金の控除額が増えるというからくりをベースに、税額控除を望む資産家たちがレコードへの投資を用いたのだ。

 仕組みはさておき、アリバイ作りのためだけに量産された〈売れてはいけない作品〉は中身が重要視されないから玉石混交だ。きちんと作られた作品もありつつ、他社のライセンス盤や編集盤、スタジオにあった誰かのマテリアル、持ち込まれたデモテープ……。

 ソウルの範疇においてもっとも有名な節税対策レーベルは、ジャクソン・シスターズを世に出したタイガー・リリーだろう。ニューバン(アトランティック・スターの前身)のデモを勝手に売ったギネスも知られているし、若き日のロン・フェアが運営したベイビー・グランドは、後に名盤化するテレア『Terea』(77年)を生んだ。そうしたひとつに数えられるのがTSGである。

 このレーベルは“Lawdy Miss Clawdy”(52年)や“Stagger Lee”(59年)で名高いリズム&ブルース~ロックンロール草創期の偉人ロイド・プライスの運営したLPGの別組織だ。その偉大なキャリアについては割愛するが、実業家としての顔にシフトしていった70年代の彼はアフリカに移住し、悪名高いプロモーターのドン・キングと組んでモハメド・アリの〈キンシャサの奇跡〉などにも関わったという。その流れで立ち上がったTSGは、76年にいきなり10タイトル以上もの作品を連発するも、税法の抜け穴が見直されたためか突如として消滅。実体は消えてもクオリティの高い音源が残されたためにTSGはディガーたちの注目を集めてきたのだ。今回はそんな二重に罪深きレーベルが残した〈かつての希少盤〉を普通に楽しんでみよう。