幻想的な森になぜか、どこでもドア(?)。赤い羽衣を着た女性がそれを開けると、先にそびえ立つ富士山。日本をイメージさせる、数々のランドスケープの上に流れる音楽は本格派R&B。シンガーソングライター・Risa Kumon“FREE”のMVは、映像と音の不思議な組み合わせで独特な魅力を放っている。

本楽曲はデニース・ウィリアムスが76年にリリースした名曲のアレンジで、国内iTunes StoreのR&B/ソウルチャートで6位、Amazon MusicのR&B/ソウルチャートで7位にランクイン。米国チャートでもiTunes、AmazonなどでTop 10に食い込み、MVのコメント欄にも国内外から賛辞が並ぶ。確かな歌のスキルとセンス、こだわりを感じるサウンドが海を越えて支持されているのだ。

それにしても、Risa Kumonは謎多き人物である。幼児期に失明から回復、高校卒業後に米LAに音楽留学、帰国後は沖縄で活動、2018年にヒップホップアーティストのROROとレーベル・R2 Recordzを設立と、その歩みは一風変わったものだ。さらにパーソナリティーを務めるビデオ番組「R2 RADIO」には、これまでカーク・フランクリン、ブライアン・マックナイト、コリーヌ・ベイリー・レイなど輝かしいゲストたちが出演している。

必ずしもメジャーレーベルに所属する必要はない時代とはいえ、いち日本のインディーアーティストでここまで多岐にわたるキャリアを持つ者は少ない。一体彼女は何者なのだろうか、その実像に迫る。

Risa Kumon 『FREE』 R2 Recordz(2022)

 

視力に頼らず音と波動を感じる

――まずはRisaさんの独特なキャリアについて質問させてください。幼少期に一度失明して回復されたそうですが、それによって音楽の感覚が鋭くなったということはあります?

Risa Kumon「失明した時の記憶はありませんが、多分あると思います。小さい頃から〈聞くこと〉に対して意識するようにトレーニングを受けてきましたね。父が音楽好きだった影響で、音楽を聴くことも音楽がある空間も好きでした。恐らく波動を敏感にキャッチしていたのだと思います。私は今も弱視で特に暗い場所では見えづらいのですが、土地勘がある場所では〈この辺に電柱があったな〉とか存在感で気付くことがありますね」

――ご自身のルーツとなる音楽は何でしょう。

Risa「ピアノも声楽もクラシックから入りました。それも好きでしたが、やっぱり一番心惹かれたのはジャズやソウル、R&Bでしたね。あとは小さい頃にゴスペルを聴いた時のインパクトがすごかったです。〈音だけでこんなに伝えることができるんだ〉と小さい時に知って、心から流れてくるパワーを体全体で感じました。

地元の長崎・佐世保は音楽が盛んで、ロックやジャズの生演奏をするバンドが多かったんです。ジャズバンドにボーカルで入れてもらったこともありました。でも私がティーンエイジの時はヒップホップが盛んだったので、その色が強いR&Bとかをクラブで歌ったりもしましたね。暗い場所なのでよく見えませんでしたけど(笑)。

クラブの波動は独特で、自分がいるエリアによって感覚が変わるんです。バーや席、フロア、DJの近くなどは雰囲気が変わるので、〈ここには大体こういう人が今たむろしてるな〉と感じられる。何となくですが、自分のいる所は把握できていたと思います」

――アーティストでは、特にローリン・ヒルに強く影響を受けたそうですね。

Risa「映画『天使にラブ・ソングを2』(93年)で彼女が歌っている“His Eye Is On The Sparrow”や“Joyful, Joyful”が好きで幼い頃からマネしてましたね。それがソウルフルなゴスペルやヒップホップとの出会いだったと思います。

最初にクラブに行き始めた時は90sヒップホップ/R&Bから聴き始めて、ファーサイドやア・トライブ・コールド・クエスト、あとはジャネイなどの女性シンガーをよく聴きました。90s以外にもあの頃にリリースされた曲はどれも好きで、パッとしない曲がほとんどなかった気がします。単にクラブで曲をかけていたDJが上手かっただけかもしれませんが(笑)」