シュープリームスの看板を最後まで背負ったオリジナル・メンバー、その功績とは

 シュープリームスといえばダイアナ・ロスのイメージが圧倒的に強い。次いで、67年にグループを脱退し、32歳の若さで亡くなったフローレンス・バラード(愛称フロー)が悲劇のヒロインとして語られる。それに比べるとメアリー・ウィルソンが話題になることは少ない。リードで歌った曲もわずかで、ドラマティックなトピックに欠けるせいだろうか。しかし、リーダー的な存在として、フローやダイアナの脱退後も〈至高〉を名乗るグループを支え続けたのが彼女だった。

 44年にミシシッピ州で生まれ、シカゴなどを経て、デトロイトに住むおじとおばの元で育ったメアリー。シュープリームスがモータウンから登場したのは61年だが、地元の低所得者団地に住む仲間で結成した前身グループのプライメッツは当初フローとメアリーのデュオだったとされるから、まさに生え抜きである。77年にはソロ転向のため脱退しかけるも、彼女の後釜が見つからず、それを機にグループは解散。それくらいメアリーの存在は大きかったのだろう。

 解散後はソロ活動を始め、シュープリームスをモデルにしたとされるミュージカル「Dreamgirls」(81年初演)を受ける形でグループの真実を明かした自伝「Dreamgirl: My Life As A Supreme」(86年)もベストセラーとなった。以降も英モーターシティなどからシングルを出し、92年には自主レーベルでアルバムも発表。この10年ほどは配信でシングルを出していた。また、シュープリームスの商標権をモータウンと共有していた彼女はその名を使ったライヴも行い、同時に慈善活動にも尽力。映画「メイキング・オブ・モータウン」にて和やかな表情で回想する姿も記憶に新しく、今年2月に76歳で他界する直前には新アルバム発表の意気込みを語るなど、生涯現役のシンガーだった。

MARY WILSON 『Mary Wilson: The Motown Anthology』 Real Gone(2021)

 その追悼も兼ねて編纂されたのが、メアリーの歌にフォーカスしたモータウン時代+αの楽曲(グループ時代の曲は別ミックスが多数)から成るCD2枚組のアンソロジー『Mary Wilson: The Motown Anthology』だ。CDは60年にプライメッツ名義でル・パインから出したシングルのB面曲“Pretty Baby”からスタート。メアリーがリードで歌う曲だ。この時点では声も若々しく、他メンバーとの違いを聴き分けるのは難しい。だが、シュープリームスとしてモータウンで活動を始めると、ダイアナの甲高くパンチのある声、フローのソフトなソプラノ、そしてメアリーのややハスキーなアルト・ヴォイスと、個性が明確になってくる。メアリーのリード歌唱曲は“Baby Don’t Go”(62年)やマーサ&ザ・ヴァンデラス版で大ヒットした“Come And Get These Memories”(66年)などわずかで、それもそのはず、ヴォーカルは一本調子で、リードだとあまり華がない。しかし、コーラスに回ると、ダイアナの声を受け止める役目として美しく機能するのだ。

 ダイアナ卒業後のシュープリームスはその後任にジーン・テレルを迎えるが、71年のアルバム表題曲である“Touch”や“Floy Joy”など、彼女とメアリーがリードを分け合うこともあった。メアリーが単独でリードを取る未発表ヴァージョン(後に編集盤で公開)の存在からは、噂されていたフロント争いの痕跡も見て取れる。ただ、当時お蔵入りとなった“Can We Love Again”のようなメロウな曲は、他の誰よりもメアリーの低く落ち着いた声こそが映えるものだ。シェリー・ペインとスーゼイ・グリーンと活動したグループ末期のアルバム『High Energy』(75年)では後半(B面)がほぼ全曲メアリーのリードで、シェリーとリードを分け合った“You’re What’s Missing In My Life”がメアリーの単独リード版も録られていたように、フロント争いは熾烈を極めていたのかもしれない。

 グループ解散後のメアリーはソロとしてモータウンと再契約し、79年にハル・デイヴィス制作で初のアルバム『Mary Wilson』を発表。グループの後期作品にも関わったジェイムス・ギャドソンやワー・ワー・ワトソンらの演奏を含む同作は、ダイアナの『The Boss』(79年)の向こうを張るようなディスコ盤だった。今回のアンソロジーには同作を丸ごと収録したほか、唯一のヒット“Red Hot”のエリック・カッパーによる最新リミックスも収め、同曲の初期ヴァージョンとされる“Anytime At All”も世界初CD化となる。また、今年4月配信の拡大版『Mary Wilson: Expanded Edition』にボーナス収録されていた、80年録音とされるガス・ダッジョン(エルトン・ジョン仕事で知られる)制作の4曲も初CD化。さらに遺作シングルとして世に出たバラード“Why Can’t We All Get Along”も聴くことができる。メアリーの再評価はこれからと言っていいだろう。 *林 剛

左から、2019年公開作のBlu-ray「メイキング・オブ・モータウン」(インターフィルム)、ダイアナ・ロスの2021年作『Thank You』(Decca)