優勝はファンの力が結集したからこそ

――プロフィールに、一時活動をお休みしていたけれど、2020年7月からまた歌い始めたとありましたが、その理由は?

みくり「10代から歌っていたんですが、あるときに、音楽って何なんだろう?と考えるようになって。表現していくうえで、何かが足りない、という感覚を持つようになって、自分が空っぽな気がしたんです。それで一度、お芝居を習ってみようと。役を演じるために気持ちを作る方法などを知りたくて。

その後、出産を挟んでしまい、一時的に歌うことから離れてしまうことになってしまったんですけど、常に音楽は切っても切り離せない存在であり続けました」

――そうか、やむを得ず離れざるを得なかったんですね。

みくり「やむを得ず、子育てに没頭しておりました(笑)。

いまはLINE LIVEという手段を用いて、自宅に居ながら発信できますから。家に居ながら夢が追えるなんて、私にとってはとにかく画期的というほかなくて。こんな世界があるんだったらもう、歌わないわけにはいかない! そんな勢いで、機材などを一気に揃えて歌い始めたんです」

本田「全部自宅でやってるんですよね。バックの派手な看板も……?」

みくり「〈singerみくり〉ってネオン看板ですね。あれはイベントでいただいたものですね。ブースっぽく見せてるけど、実はただの和室なんです(笑)」

2022年8月28日の配信

――ハハハ。こういう新たな発信の仕方が出てきたことについて、本田さんはどういうふうに捉えてらっしゃいますか?

本田「今回初めてLINE LIVEのオーディションに関わらせてもらったんですが、審査員を前にして参加者がパフォーマンスを披露するという通常のスタイルに対して、選考するのがそれぞれのファンの人たちというのがおもしろい。最後の数十分とかすごく盛り上がって、演者もファンもみんなで泣いちゃったりして」

みくり「グシャグシャになってましたね」

本田「そうか、この優勝はシンガー個人のものじゃなく、みんなの力が結集して獲得できたものなんだなって思った。なので歌詞にある〈あなた〉は、ファンの人たちをイメージしています。みんなのサポートが重要だったんだよって気持ちを伝える意味で。そんなことを踏まえて曲作りに入ったので、すんなりイメージが完成しましたね。だから普通のオーディションで優勝するよりもすごいと思いますよ」

――なるほど、オーディションの場で感じた熱をそのまま曲に注ぎ込もうとしたわけですね。ところで、みくりさんはいろんな経験を積みながら、歌と向き合い続けてきたわけですけど、現在の自分の歌とかつての自分の歌を比べてみて、何か違うところがあるように感じますか?

みくり「歌う姿勢の変化では、ひとりじゃないな、と思えるようになったことが大きいですね。スタートしたときはただただ、歌いたい!って感じだったけど、いまは6,000人を超える方たちの支えをしっかりと実感できる。LINE LIVEを始めて2年になるんですけど、〈がんばれがんばれ!〉って声援にずっと支えられています。これまでの人生でこんなに〈がんばれ!〉って言ってもらったことはなかったから(笑)。皆さんのために、もっと高いところにいかねば、って気持ちになってますね」

――自分の歌がちゃんと届いていることを認識できるって幸せですよね。

みくり「最初はただ〈曲〉が欲しかっただけでした。でもそれをいただくだけではもう済まなくなった。じゃあ、私はどうしていったらいいんだろうか? そういうことまで考えるようになったりして、リスナーさんたちにどんどん成長させてもらっています。いきなりでっかい夢を持つなんてできないけれど、みんなといっしょだったら夢がどんどん膨らんでいく気がする。そんな感じですかね。あと、ずいぶん泣き虫になっちゃいました、私」

――ハハハ。

みくり「それと、いままで普通に歌っていたいろんな曲の歌詞に、これまでとは違った色が付いたような気がしています。その色彩感をもっともっと豊かに表現したいんですけど、私の力量がまだ足りなくて。なので、いろんな人の歌を聴いてみたり、映画を観たりして、ずっと模索中です」

 

どんな作品も聴いてくれる人たちの元に届いて完成する

――みくりさんがもっとも影響を受けたミュージシャンって誰なんですか?

みくり「マイケル・ジャクソン!」

――おぉ、即答ですね。

みくり「両親とも音楽がすごく好きなんです。母は昼から音楽をかけながら踊り狂っているような人で、父は酔っぱらいながらギターを持って歌いまくっている人。父は歌本をめくりながらひとり娘の私にいろんな曲を毎日のように歌ってくれました。

ある日、父がマイケル・ジャクソンの“Thriller”のMVを見せてくれて、楽しそうに踊っている人たちを観ながら(目を大きく見開きながら)うわ~!!ってなって。ダンスと歌があれほど一体化したものを観たのが初めてだったから」

マイケル・ジャクソンの82年作『Thriller』収録曲“Thriller”

――なるほど。では、みくりさんが音楽をやるうえで、つねに大事にしていることはなんですか?

みくり「普段言えないようなことを詞に乗せて届けるのが歌だと思っているので、歌詞をしっかりと伝えることをまずいちばんに考えます。そのためにはもっと感性を磨かないといけないし、経験値もまだまだ足りない。もっとたくさん作品を観たり聴いたりして、しっかりとアンテナを張って、新しいものから古いものまでいろいろキャッチしていかないと。

ただ、子育てによって経験値がだいぶ上がったかなって気もする。その影響で、取り上げる曲の幅も広がった実感があるし。やっぱり、ちゃんとカラフルな世界のなかにいないと大事なものも伝えられないんじゃないかなぁって思いますね」

――表現力を磨くために大切なことなど、先輩ミュージシャンとして本田さんがアドバイスをするとしたら?

本田「そうですねぇ。僕も曲を作ったり、楽器を演奏したりしているわけですけど、どんな作品も、ここ(スタジオ)ではなく、聴いてくれる人たちの元に届いてようやく完成するんだなって思うんです。笑顔や涙を流している顔など、向こう側にいる人たちに思いを馳せながら作業していると、自然と想像力が磨かれていくものだし、そこで得たものは歌にも確実に反映されるはず。つまり常にその先をイメージすることですかね。もちろんスキルの向上も必要だけど」

みくり「歌唱力がいきなり向上することってなかなかないけど、表現力は頑張ったら何とかなるんじゃないかなって思うんですよ。だからいまはそっちを大事にしたいって」

――あと、日々成長していく娘さんから教わること、発見することも多いでしょうし。

本田「子供ができるとガラリと変わりますもんね」

みくり「ほんとに! 彼女に成長させてもらってます。過去の自分を恥ずかしく思ったりしますよ。あの頃の私はたぶん、この子のようにできていなかったよな、って」