©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

 撮影を担当しているのは過去に15回アカデミー賞撮影賞の候補に上がり、メンデスの前作『1917 命をかけた伝令』で2度目のアカデミー撮影賞に輝いている現役最高峰のカメラマン、ロジャー・ディーキンスだ。カモメが飛び交うブルーグレイ一色の寒々とした屋外と、朱色がメインの暖かな映画館館内との対比、漆黒の夜空に上がる花火、寝室に差す陽の光、浴室を照らす蝋燭の灯り、そして、暗闇に光を当てて別世界を描く映画という魔法の魅力etc。『エンパイア・オブ・ライト』と銘打つ本作の視覚的な醍醐味が撮影の名手によって具現化されている。さらに、『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』他で知られるマーク・ティルデスリーが、ロケ地のマーゲイトで発見した古ぼけ、朽ち果てたアールデコ調の映画館兼ダンスホールを〈エンパイア劇場〉に作り替えた画期的なプロダクション・デザイン、メンデスが青春時代によく聴いていたという、当時の貧困と分断から生まれたザ・スペシャルズ、ザ・ビート、ザ・セクター等、ジャマイカ発祥のスカとパンクをミックスした音楽、映画館という閉鎖空間に主な舞台を設定し、外からの圧力によって内部に劇的な変化が生じる様子をドラマチックに捉えた、舞台演出家としても知られるサム・メンデスならではの演劇的な面白さ、等々。各分野から集結した一流のプロたちによる仕事ぶりにも着目して欲しい。

 何よりも、メンデスがパンデミックによるロックダウンの最中に本作の製作を思い立った、その理由に説得力がある。「これは映画への讃歌であり、映画館への讃歌でもあります。劇中でスティーヴンが言います。〈あの細い映写の光が逃げ場なんだ〉と。そう、人には生活から逃れて、別の自分を見つけ出す場所が必要なのです」――そんな監督のメッセージは今こそ発せられる意義があるのではないだろうか。人々が暗闇の中から必死で光を模索し、もがきながらも新たな物語を紡ごうとしている、苦難の時代を生きているからこそ。

 


MOVIE INFORMATION

©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

映画「エンパイア・オブ・ライト」
監督・脚本:サム・メンデス「1917 命をかけた伝令」「007/スカイフォール」「アメリカン・ビューティ」
音楽監修:ランドール・ポスター
音楽:トレント・レズナー&アッティカス・ロス
出演:オリヴィア・コールマン/マイケル・ウォード/コリン・ファース/トビー・ジョーンズ/ターニャ・ムーディ/トム・ブルック/クリスタル・クラーク ほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(2022年 イギリス・アメリカ 115分)
©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
2023年2月23日(木・祝)TOHOシネマズ日比谷ほか 全国ロードショー
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