閉鎖的な社会状況

 今作で描かれるストーリーは、ゴリラズの面々が世界を救う真実を探るべく、LAで〈ザ・ラスト・カルト〉なる教団を創設するというもの。日本でも改めて身近(?)なワードになったカルト宗教がここで題材になるというタイミングも驚きだが……先行シングル“Cracker Island”が出た昨年6月の時点でデーモンは〈ある種の狂った人たちは、自分と同じ種類のエコーチェンバーの中では幸せに暮らしていける〉とテーマを語っていた。それは当然いわゆるカルト宗教だけの話ではなく、SNS上に広がる無限のエコーチェンバーによって着実に消耗し、各々の閉鎖性を刃にして傷つけ合う現代社会のさまざまな側面に当てはまるのは言うまでもない。表題の〈クラッカー・アイランド〉とは〈同じ価値観だけを共有して幸せに暮らす理想郷〉のこと。もちろん一方の考えるユートピアは他方から見ればディストピアになりうるわけで、そうした皮肉な眼差しは米大統領選でトランプ候補の勝利する世界を想定して作られた『Humanz』(2017年)にも通じるものだし、イラク戦争を反映した『Demon Days』(2005年)を思い出す人もいるかもしれない。

 とはいえ、社会の様相をカリカチュア的に描きつつ、そのディストピア物語を実際に表現するのが音楽を媒介にリンクした多種多様なアーティストたちだというユートピア的な構図もゴリラズらしいところだろう。今回の制作陣はデーモンと参謀のレミ・カバカJrに加えて、大物ヒットメイカーのグレッグ・カースティンが初めて共同プロデュースに参画。全体的にはノッティングヒル・カーニヴァルに捧げた2021年のEP『Meanwhile EP』のトーンを継承してカリブ~アフロ系の意匠が目立ちつつ、楽曲ごとのカラーはゲストに寄せた側面もあり、前作よりはコンパクトながらもトータルの多彩さはいつも通りだ。

 先述のシングル群以外で言うと、まず耳を引くのは、グレッグを介して実現したというスティーヴィー・ニックスとの“Oil”か。フリートウッド・マックのモダンな再評価も定着した昨今、80年代ライクな意匠と劇的なメロディー、彼女のシリアスな歌唱は実にモダンに響く。また、ゆったり快いトロピカルなアイランド・ポップに乗せて曲名通りの悲哀を吐く“The Tired Influencer”、孤独と独善性を軽快なビートでダンサブルに歌った“Tarantula”のようなデーモン独唱の曲もいい感じの味わいだ。初顔合わせのゲストが多いなか、“Dirty Harry”(2005年)以来の登場となった先述のブーティー・ブラウンと並んで2度目の参加となったベックは、前作の“The Valley Of The Pagans”に続いて本編ラストの“Possession Island”に客演している。なお、その後に収まる日本盤ボーナストラック“Crocadillaz”には、大御所のドーン・ペンと、代表曲“Feel Good Inc.”(2005年)や“Superfast Jellyfish”(2010年)などでお馴染みのデ・ラ・ソウルが登場。本稿の執筆時点では未聴ながら、こちらもファンには嬉しい一曲になるだろう。

 今年の夏はウェンブリー公演を含むブラーでの大舞台を控えているデーモン。そちらの動きも気になるところだが、現在の調子を見る限りホームでの積極的な活動にはこの先も大いに期待してよさそうだ。

ゴリラズの過去作。
左から、2001年作『Gorillaz』、2005年作『Demon Days』、2010年作『Plastic Beach』『The Fall』(すべてParlophone)

『Cracker Island』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、サンダーキャットの2020年作『It Is What It Is』(Brainfeeder)、スティーヴィー・ニックスのベスト盤『Stand Back: 1981-2017』(Rhino)、テーム・インパラの2020年作『The Slow Rush』(Modular)、バッド・バニーの2022年作『Un Verano Sin Ti』(Rimas)、ベックの2019年作の新装盤『Hyperspace(2020)』(ユニバーサル)、デ・ラ・ソウルの89年作『3 Feet High And Rising』(Tommy Boy/Chrysalis)