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歌の持つ力

 楽曲選びの段階から構造の分析や解体・再構築も含めたリアレンジ、レコーディングは過去2年かけてじっくりと進められてきたそうで、そうした舞台裏の進行はここ数年のバンドの動きを重く見せていたが、もちろんその間の彼らにまつわる露出がまったくなかったわけではない。コロナ禍の期間には〈Virtual Road〉と題して過去のライヴ音源をいくつかリマスター配信したほか、ハル・ウィルナーの遺作にもなったマーク・ボランのトリビュート盤『Angelheaded Hipster: The Songs Of Marc Bolan & T. Rex』(2020年)にエルトン・ジョンと組んだ“Get It On”で参加してもいた。また、2021年に開催延期となった〈UEFA EURO 2020〉のマーティン・ギャリックスによる大会公式ソング“We Are The People”にはボノとエッジが客演し、ボノ単独の客演では故DMXの遺作における“Skyscrapers”やズッケロの“Canta La Vita (Let Your Love Be Known)”もあった。また、本人たちと直接の関係はないものの、前作『Songs Of Experience』(2017年)を手掛けたライアン・テダー率いるワンリパブリックの“West Coast”にて“Summer Of Love”がサンプリングされていたり、同郷のローナン・キーティングが歌った“Where The Streets Have No Name”も思い出される。

 なかでも重要なのは、2021年に公開された映画「SING/シング:ネクストステージ」との関わりだろう。ここで声優デビューを果たしたボノは、妻を亡くして歌うことのできなくなったかつてのロックスター、クレイ・キャロウェイ役を演じている。しかも、さまざまな名曲がキャスト陣によって歌われる劇中にてU2の楽曲が3つも選ばれたうえ(そのうちの“I Still Haven’t Found What I’m Looking For”はスカーレット・ヨハンソンとボノのデュエット)、エンディングテーマとしてU2久しぶりの新曲“Your Song Saved My Life”が書き下ろされていたのだ。

 その曲名が示唆する〈歌の持ったパワー〉や〈歌というものの本質〉は映画本編のテーマでもあったが、それはそのままU2がその活動を通じて表現してきた姿勢とリンクするし、それは昨年のロシアによるウクライナ侵攻に際して難民支援を呼びかけるべくアコースティックで“Walk On”を披露したボノとエッジのアクションにも通じている(5月にはゼレンスキー大統領の招待に応じてキーウ入りもした)。そして強引に結びつけてしまえば、そのように〈歌の力〉を改めて考えたことが、今回の『Songs Of Surrender』のコンセプトにも作用しているように思えるのは偶然ではないだろう。必然的にアルバムの内容は楽曲そのものの本質を探り当て、シンプルな形で取り出すという試みになった。