
時々、メタルファンの方から、普段のジャズライブについて〈○月○日のライブでは、メタルの曲は演奏しますか?〉と聞かれることがありますが、基本的にはNHORHM以外のアンサンブルでのライブでは、やっていません。
メタルファンからしたら想像し難いかもしれませんが、ジャズライブにおいて、その日のライブの演奏曲は、ほとんどの場合当日決めます。
その日のリーダーが全部持ってきたり、メンバーで持ち寄ったりしますが、当日のリハーサルで少し音を出してみてから曲を決めるのが通常で、〈このプレイヤーなら、きっとこの曲に興味を持ってくれて、面白いアプローチをしてくれるのではないか〉、〈このメンバーの組み合わせで音を出したら、体験したことのない景色が見えるんじゃないか〉などと期待できる、自分が演奏したい、かつ、アンサンブルで広がる可能性のある曲を持っていきます。
ですので、多くの場合、共演者のほとんどはメタルを聴いていないので、うまくアレンジしていてもそのキモや面白さは共有できないし、持って行くことは少ないですね。以前この連載でインタビューした馬場孝喜さん(ギター)、鈴木直人さん(ギター)との共演の時は、ある程度共有しているので、メタル曲を持って行くこともあります。
NHORHMでは演奏していないけれど、普段のジャズライブでよく取り上げているロック系の曲としては、メタリカの”Sad But True”と、ジェフ・ベックの“Diamond Dust”の2曲は、あまり気にせず色んなジャズミュージシャンとセッション的によく演奏しています。
メタリカの”Sad But True”は、『New Heritage Of Real Heavy Metal III』の録音の時に“Enter Sandman”をカバーしたいと思い、『ブラック・アルバム』を何度も聴き直していた時に、なんとなく〈“Sad But True”のリフはスイングのリズムに変換しても良さそうだし、なんならセカンドラインで演奏できそうだし、メロディはリズムチェンジに上手くはまるんじゃない?〉と思いついてしまって、そのようなアレンジで演奏しています。
〈セカンドライン〉は、ニューオーリンズジャズで使われるリズムで、〈リズムチェンジ〉は、ジョージ・ガーシュイン作曲“I Got Rhythm”と同じコード進行で、セッションでよく演奏されるフォーマットです。
というように、あまりにもジャズに寄せてアレンジしているので、〈メタルとジャズの両方を同じ配分でリスペクト〉がテーマのNHORHMでは演奏せず、単発のジャズミュージシャンとのセッションで演奏しています。
ジェフ・ベックの“Diamond Dust”は、私が19歳ぐらいの時にセッションで誰かが持ってきて初めて演奏して、以降長くレパートリーとして演奏しています。コースが大きく開かれており、ジャズアンサンブルとして演奏してもとても面白い曲で、この曲を知らなかったジャズミュージシャンから〈とても良い曲で、ロックでこんな面白い曲があるのね!〉といつも言われますね。
この連載も〈メタルとジャズ、両方に触れる内容を〉ということで始めましたが、ジャズ現場の時にあまりメタルという個人の趣味を持ち込みたくない気持ち、NHORHMの時にジャズのマナーに寄せすぎたくない気持ち、その両面があり、自分でバランスを模索することそれ自体が楽しいんだろうな、などと感じています。
あわよくば、ジャズファン、メタルファンが、時々反対の河岸に渡って体験してもらえたら嬉しい。
私は、大雑把にいうと、メタルを聴く時は〈でかい音に委ねて思考停止になりたい〉、ジャズを聴く時は〈誰がどう動いているのか、何を考えているのか、意志が知りたい〉みたいな感じで聴いています。どちらも大事な時間です。
ということで、今後もどちらの楽しみも書いていけたらと思っています。
6年目もよろしくお願いいたします!
LIVE INFORMATION
2023年5月19日(金)埼玉・蕨 Our Delight
開場/開演:19:00/19:30 ※2セット、入替なし
出演:西山瞳(ピアノ)/鈴木直人(ギター)
一般/29歳以下の本業学生/29歳以下の社会人:3,600円/1,100円/2,600円(いずれもドリンク代別)
有料配信あり:https://twitcasting.tv/f:2943838705694855/shopcart/234512
2023年5月20日(土)神奈川・横浜 上町63
開演:15:00(1st)/16:30(2nd)
出演:西山瞳(ピアノ)/青木タイセイ(トロンボーン)/座小田諒一(ベース)
チャージ:3,300円(学割あり)
2023年5月27日(土)YouTube配信ライブ予定
開演:19:00(1時間程度)
出演:西山瞳(ピアノ)
https://www.youtube.com/@hnofficialm
2023年5月31日(水)東京・成城学園前 Cafe Beulmans
出演:西山瞳(ピアノ)/伊東佑季(ベース)
開場/開演:19:30/20:00 ※2セット、入替なし
チャージ:3,300円(2ドリンク代別)
2023年6月9日(金)埼玉・蕨 Our Delight
開場/開演:19:00/19:30 ※2セット、入替なし
出演:西山瞳(ピアノ)/橋爪亮督(テナーサックス)
一般/29歳以下の本業学生/29歳以下の社会人:3,600円/1,100円/2,600円(いずれもドリンク代別)
有料配信あり
2023年6月14日(水)東京・池袋 Apple Jump
開場/開演/終演:19:00/19:30/22:00(予定)
出演:西山瞳トリオ 西山瞳(ピアノ)/西嶋徹(ベース)/則武諒(ドラムス)
チャージ:3,500円
★詳細とその他のライブについては西山瞳のオフィシャルサイトへ
RELEASE INFORMATION
リリース日 :2022年11月9日(水)
品番:MT-11
価格:2,750円(税込)
紙ジャケット仕様
TRACKLIST
1. Fairy Tale フェアリー・テイル(作曲:西山瞳)
2. Take the “K” Train テイク・ザ・ケー・トレイン(作曲:西山瞳)
3. Yawn ヨーン(作曲:西山瞳)
4. Walking in the Park ウォーキング・イン・ザ・パーク(作曲:西山瞳)
5. 200km 200キロメートル(作曲:西山瞳)
6. HIRAKATA Park West ヒラカタ・パーク・ウェスト(作曲:西山瞳)
7. Our Memorial Attractions アワ・メモリアル・アトラクションズ(作曲:西山瞳)
8. Romance ロマンス(作曲:西山瞳)
録音日:2022年4月18日、奈良 NMG Studio
録音/ミックス/マスタリング:三輪卓也(NMG Studio)
アートディレクション/平岡直樹(yuu)
西山瞳(ピアノ)
鈴木孝紀(クラリネット)
光岡尚紀(ベース)

PROFILE: 西山瞳
79年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I’m Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、〈横濱JAZZ PROMENADE ジャズ・コンペティション〉において、自身のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めて〈ストックホルム・ジャズ・フェスティバル〉に招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『Parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、〈インターナショナル・ソングライティング・コンペティション〉(アメリカ)で、全世界約15,000のエントリーのなかから自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコードのジャズ総合チャートで1位、HMVの総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自身のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『Shift』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカバーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、ヤング・ギター誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズの両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。自身のプロジェクトの他に、東かおる(ボーカル)とのボーカルプロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。〈横濱JAZZ PROMENADE〉をはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさが共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。