
激しいノイズの中、痛々しく叫ばれる〈Goodbye〉
中でも母に宛てたと思われる“Show Me How”にいたっては、シューゲイズを想起させなくもない。心の支えを失ったデイヴの声はかつてなく脆く、ヴァイオレットがぴたりと寄り添ってそんな父を包容する秀逸な1曲なのだが、アルバムのセンターピースとしてはやはり、10分に及ぶ“The Teacher”を挙げておきたい。
長尺を活かした複雑な構成のこの曲で彼は、タイトルが示唆する通りに、時間の不可逆性、未来の不確かさ、或いは生命のサイクルなど、教師を生業としていた母から教わったこと、今回の悲劇から自分が学んだことを突き詰めていく。〈生きる術を教えてくれたけど、別れを告げる方法は教えてくれなかった〉と彼女に向かって、激しいフィードバックノイズの中で〈Goodbye〉と幾度も叫ぶ様は、ただただ痛々しい。
その後一瞬の空白を挿んで、アコギの音に乗ってフィナーレの“Rest”が聞こえてくる。エモーショナルなクリス・シフレットのソロに彩られた、壮大にしてジェントルなレクイエムだ。ここにきてようやく心の平静を得て、〈安らかに眠りたまえ〉と祈りを捧げる一同は、今後世界各地でこれらの曲をオーディエンスと分かち合い、プライベートな弔いを再びパブリックなトリビュートへ、かつセレブレーションへと転化するのだろう。
RELEASE INFORMATION

■国内盤CD
リリース日:2023年6月14日(水)
品番:SICP-6519
価格:2,640円(税込)
歌詞・対訳・解説付き
■輸入盤CD
リリース日:2023年6月2日(金)
品番:19658817832
価格:2,490円(税込)
■配信
リリース日:2023年6月2日(金)
TRACKLIST
1. Rescued
2. Under You
3. Hearing Voices
4. But Here We Are
5. The Glass
6. Nothing At All
7. Show Me How
8. Beyond Me
9. The Teacher
10. Rest
PROFILE: FOO FIGHTERS
元ニルヴァーナのドラマーであり、現在の音楽シーンを代表するロックアイコン、デイヴ・グロール(ボーカル/ギター)を中心とする米ロックバンド。これまでグラミー賞で15冠に輝き、アルバム総セールスは3,200万枚を超える。ニルヴァーナの解散の翌年の95年にデビューアルバム『Foo Fighters』をリリース。全15曲入りの同アルバムでは、デイヴがほぼ一人で全ての楽器、ボーカルをこなし完成をさせた。同時にバンドメンバーを集め、正式メンバーとして、ニルヴァーナのツアーギタリストだった元ジャームスのパット・スメア(ギター)、元サニー・デイ・リアル・エステイトのネイト・メンデル(ベース)とウィリアム・ゴールドスミス(ドラムス)を迎え入れた。97年、2ndアルバム『The Colour And The Shape』をリリース。同作のレコーディングではドラムのレコーディングに満足できなったデイヴがドラムパートを全て自身で録り直すというハプニングがあり、このことをきっかけにゴールドスミスはバンドを脱退。続いて疲労が重なり、バンドを続けていくことができないと判断したスメアも脱退する。ゴールドスミスの代わりとして、アラニス・モリセットのツアードラマーだったテイラー・ホーキンスを新しいドラマ一として迎え入れられた。バンドは同年、記念すべき第1回〈FUJI ROCK FESTIVAL〉への出演を果たす。99年、3rdアルバム『There Is Nothing Left To Lose』をリリース。同年、新たなメンバーとして元ノー・ユース・フォー・ア・ネームのクリス・シフレット(ギター)を迎え入れ、新生フー・ファイターズの体制が整う。同作でグラミー賞の最優秀ロックアルバム賞を受賞。2002年、4thアルバム『One By One』をリリース。同作でグラミー賞の最優秀ロックアルバム賞を受賞。同年、イギリスの〈レディング・フェスティバル〉ではヘッドライナーを務めた。2005年、5thアルバム『In Your Honor』をリリース。同年、バンドは〈FUJI ROCK FESTIVAL〉のヘッドライナーを務めた。2007年、6thアルバム『Echoes, Silence, Patience & Grace』をリリース。同作でグラミー賞の最優秀ロックアルバム賞を受賞。同年、ツアーキーボーディストであったラミ・ジャフィー(キーボード)が正式メンバーとして加入。2010年、一度は脱退したスメアが再び正式にバンドへと復帰。2011年、7thアルバム『Wasting Light』をリリース。同作でグラミー賞の最優秀ロックアルバム賞を受賞。2014年、8thアルバム『Sonic Highways』をリリース。2017年、9thアルバム『Concrete And Gold』をリリース。同年、初となる〈SUMMER SONIC〉のヘッドライナーを務めた。 2021年、10thアルバム『Medicine At Midnight』をリリース。同作でグラミー賞最優秀ロックアルバム賞を受賞。同年、ロックの殿堂入りを果たす。 2022年3月25日、ホーキンスが急逝し、全世界のファンが悲しみに包まれた。同年9月、ホーキンスのトリビュートコンサートが英ロンドンと米ロサンゼルスでそれぞれ開催された。2022年7月、デイヴの最愛の母であるヴァージニアが死去。2022年10月、フー・ファイターズの代表曲およびファンからの人気曲を集大成した決定版『The Essential Foo Fighters』をリリース。