
2015年。日本ツアーで電車移動中
宇多田ヒカルからボン・イヴェール、原住民音楽までフォー・ぺンズのルーツ
――フォー・ぺンズについて言うと、個人的にはキングス・オブ・コンビニエンスやザ・バード・アンド・ザ・ビーなど、欧米のフォークポップ/インディーポップを彷彿とさせ、洋楽的な音楽性のバンドだと感じていました。実際はどんなアーティストを好んで聴いているんですか?
ビボ「その2組は私のお気に入りです。影響としてはやっぱり欧米のフォークミュージックが大きくて、すぐに思い浮かぶのは、ルーシー・ローズやボン・イヴェール、オブ・モンスターズ・アンド・メン、アンガス&ジュリア・ストーン、アイアン&ワインといったアーティストたちです。日本だとクラムボンやROTH BART BARONが大好きで、曽我部恵一さんの作品も愛聴してます」
カンダス「私の音楽の趣味は時期によって変わりますが、一度気に入るとその作品にどっぷりとハマることがよくあります。質問の中で言及されていた2組も夢中になっていた期間があり、何度も繰り返し聴いていました。それ以外だとmiaouやCornelius、トクマルシューゴが好きで、最近だとSTUTSにハマっています。
あとはチェン・チーチェン(陳綺貞)やジェイ・チョウ(周杰倫)、ウェイ・ルーシュエン(魏如萱)といった台湾のアーティストや、スフィアン・スティーヴンス、リトル・ジョイ、ファイスト、The xxなど、欧米のフォークミュージックやエレクトロニックミュージックも好きですね」
サニー「私はクールでカッコイイ女性が大好きで、台湾だとティジー・バック(Tizzy Bac)やサンデー・チャン(陳珊妮)、海外ではビリー・アイリッシュやテイラー・スウィフト、宇多田ヒカルなどがお気に入りです。彼女たちの音楽に夢中になっていた時期があります。一つのことに集中して、それを完璧に仕上げるような、輝いている人々が好きなんです。
台湾のシンガーソングライター、イージー・シェン(Easy Shen)も大好きで、彼からはしばらくの間、ジャズピアノを学んでいました。彼は音楽や人生に関して多くのアドバイスをしてくれる、私の恩師です。台湾原住民の音楽、例えばスミン(Suming 舒米恩)やイリー・カオルー(以莉高露)も好きです。
2016年に神戸に住んでいた時、周りの友人の影響でテニスコーツやCornelius、青葉市子、cero、サニーデイ・サービスなどが好きになりました。今でもテニスコーツを聴くと、その頃のことが思い出されます。本当に不思議な感覚です」
――2021年にリリースされたフォー・ぺンズ待望のファーストアルバム『And I believe in eternal 我也相信了永久』からは、今3人が言及したようなアーティストたちの影響が感じ取られます。fastcut recordsでも本作が販売されていますが、本作の魅力について森川さんの考えを聞かせてください。
森川「レーベルで最初にリリースしたザ・スターレッツ(The Starlets)やスウェーデンのクリアキン(Kuryakin)も彷彿とさせて、有名なところでは、ベル・アンド・セバスチャンやカメラ・オブスキュラなどの初期の作品、あとはアイアン&ワインのようなシンガーソングライターにも通じるテイストを感じており、台湾フォークの傑作となったのかと思っています。
2019年の来日ツアーの時、ビボとアルバムの制作や方向性について話したことがありました。彼は、アルバムの中で一つの大きな物語を完成させたいと話していて、ずっと〈構成が難しい〉と話していたのを覚えています。
結果的には、ビボの内面性が大きく反映された、儚くも美しい映画のような仕上がりとなりました。メンバーが30代に入り、若さを失いつつも、その先に見えたアーティストとしての風景が表現されています。アルバムの物語に秘められた人生の短さや、尊さ、愛するものを失うこと、希望など、さまざまな感情が込められているように思えます」

自宅スタジオで撮影されたライブクリップより
K-Popだけではない韓国インディーやフォークのシーン
――フォー・ペンズが聴いている、あるいは影響を受けたアーティストの話によって、その音楽性もより理解できたかと思います。キムポムさんのプロフィールには影響を受けたアーティストとしてシガー・ロスやサラ・マクラクラン、坂本龍一などの名前が挙げられていましたが、韓国で影響を受けたアーティストはいますか?
キムポム「韓国で影響を受けたアーティストはたくさんいますが、代表的なところだとチョ・ドンイク(조동익)、キム・ユンア(김윤아)、イ・ソラ(이소라)を挙げたいと思います。 特にチョ・ドンイク(jo dongik 조동익)さんの『憧れ(동경)』と『blue pillow』は人生で一番好きなアルバムです」
――組んでいるバンド、ハビー・ヌアージュは2013年にフジテレビで放送されていたオーディション番組「ASIA VERSUS」にも出演するなど、国内外での注目度も高かった。そんな中でも、ソロ活動を始めた理由はあるのでしょうか?
キムポム「色々なサウンドを模索したかったですし、1人で作業するのにも慣れているので、バンドとは別の音楽がやりたいと思ったんです」
――キムポムさんの音楽は〈コンテンポラリーフォーク〉などと表現されることもありますが、実際そういった形容詞はしっくりきていますか?
キムポム「自分の作りたい音楽を作っているだけで、ジャンルは分かりませんね。けどフォークではないと思います(笑)。ただ、韓国では紹介される時、ジャンルの選択肢が少なく、〈フォーク〉に分類されてしまうことは多いです」
――韓国でも日本同様、フォークミュージシックが隆盛を極めたような時代もあったのでしょうか?
キムポム「韓国にもフォークミュージックはたくさんありましたし、80年代から90年代にかけて隆盛を極めました。以前は私よりも上の世代の音楽だったのですが、最近は若い世代もその頃のフォークミュージックを聴いているようです」
――正直な話、最近は〈韓国の音楽〉と聞いて、K-Popをイメージしない人はいないと思います。とはいえ、韓国にももちろん、ロックやヒップホップ、R&B、ジャズ、ワールドミュージックなどさまざまなジャンルの音楽があります。〈K-Popだけではないよ〉といった気持ちもあるのでしょうか?
キムポム「K-Popが私たちの活動の妨げとなるようなことはないですが、他と比べて〈大きすぎる〉という感覚はありますね。なので、むしろ今回、日本ツアーの機会が巡ってきたことを光栄に思います。韓国音楽の違った側面を知ってもらえますし」
――森川さんにもそういった気持ちはあるのでしょうか?
森川「そうですね、最近の韓国ではK-Pop以外の音楽も盛り上がりを見せていて、ヒョゴ(HYUKOH)やアドイ(ADOY)、セソニョン(SE SO NEON)といったバンドや、ワールドワイドに活躍し、日本でも人気のDJ、ペギー・グー(Peggy Gou)などが頭角を現しています。しかしながら、キムポムの音楽と出会い、静かでいてエモーショナルな音楽に惹かれるようになりました。
彼女と同じくハビー・ヌアージで活動していたチョン・ジンヒ(Jeon Jin Hee 전진희)、素晴らしい歌声の男性シンガーソングライター、キム・ヒョンチャン(Kim Hyunchang 김현창)、そしてfastcut recordsから12月にリリース予定の女性アーティスト、ホ・フェギョン(Heo Hoy Kyung 허회경)など、今年だけでもたくさんのアーティストを見つけていて、日本でも少しずつ紹介していけたらと思っています」
