〈凡才〉ボカロPが足掻いて足掻いて登っていく。現代ネット音楽シーンを描く「アカネノネ」第1章完結!

矢田恵梨子 『アカネノネ 5』 小学館(2023)

 バンド、ピアノ、クラシック、ジャズ……音楽を題材にするコミック作品は数多くあれど、なかなか珍しい題材を選んだこのタイトルに僕は注目している。すなわちボーカロイドとネット音楽界を中心に現代のミュージックシーンを描く青春劇「アカネノネ」である。

 月刊!スピリッツにて「茜色のコンポーザー」のタイトルでスタートし、現在のタイトルに改題され週刊ビッグコミックスピリッツで連載。その待望の最新刊第5巻が8月に発売された。当初完結と謳われ最終巻になるかと思いきやアプリ〈マンガワン〉での好評を受け新章:プロ編の連載開始が決定した。

 プロミュージシャンを目指す音大生であり〈凡才〉ボカロP:神崎茜音は、有名音楽プロデューサーである父:神崎仁との確執や、無垢の歌い手:灯(ともる)らとの出会いを経て、成長し音楽に向き合っていくストーリーだ。この作品の特徴は登場人物の背景の種類が非常に豊富で多種多様なドラマが至る所に発生しているところ、と言えるだろう。ネット音楽界を舞台にしているが故に、〈作り手/聞き手という立場〉も〈音楽へのスタンス〉も〈年齢/若さ〉もまるで違うキャラクター達が衝突し、数多のフラストレーションとカタルシスを生んでいる。インターネットが普及し誰もが創作できる現代ならではの人間模様が、解像度高く描かれ実に読み応えのある作品だ。特に第3・4巻で描かれる〈ボカ祭編〉はその極致といっても良いだろう。(短く小さな描写だったが、個人的には小学生P〈ぜねむ〉のシーンが暖かくとても好きである。)

 さて、この第5巻は因縁のボカロP:錆々との邂逅や灯との再会が描かれ、第1章となる音大生編のクライマックスを築く。張り巡らされた伏線は予想だにしないところで回収されストーリーの構築力にも舌を巻いた。茜音の音楽への執念とも呼べる思いが、彼の足掻きがどのような結末を迎えるのかその目で確かめてほしい。そしてこの先の物語に期待しよう。