ここのところ創作、舞台、あるいは朗読会と、アーティスティックな活動に力点を置くようにみえる。一方でいくつかの音楽大学の教授陣にも名を連ね、そこでは後身にジャズの魅力を伝えるプリーチャーの顔に変転させる。そんなところ伝わってきたジャズピアノ6連弾再始動のニュースは、ちょっとした朗報として受け取った。ミューザ川崎シンフォニーホールのアドヴァイザーも務める佐山雅弘が主導し、そこでやるガーシュウィン作《ラプソディ・イン・ブルー》のクラシック的解釈が、ことのほかお気に入りだったからだ。
90年も前のミュージカルに挿入されたこの1曲は、バーンスタインに言わせれば「対位法もわかっていない、出来の悪い作品」となる。しかし同時に「こんな魅力的メロディを書けることが羨ましい」と言って、ガーシュウィンの本質をついてみせた。多作家の佐山でさえ「次から次へとイメージを飛ばしていくんだが、それがロールプレイング・ゲームみたいで、何かもったいない気がしてくる」と漏らす大作。何よりこれは最初にクラシックとジャズとを架け渡した結着剤にして、シンフォニーとピアノを同等に記譜した最初の作品であった。そして次に取り組んだ仕事を見れば、先の解釈にも納得がいく。佐山は東京交響楽団と音響の良いミューザ川崎のホールの下にまみえ、その因縁の《ラプソディ・イン・ブルー》を録音したのだった。
「ドヴォルザークのように次から次へ展開させながら、そのどれもが良いメロディを持っています。チャイコフスキーさえその才能を羨ましがったという話で、とにかく溢れ出してきてしようがない人だったのじゃないかな。人は直感だけでメロディなど書けないと言いますが、直感が鋭くなければあれだけ人の心に突き刺さるメロディは生まれてこないと思う。そしてそのどこかに必ず、ユダヤ人の血を感じさせるんですね」
不思議な民族臭、複雑なパズル感、そしてシンフォニーと同期させない異常なブルースラインへの執着。それらが同曲にはこれでもかと詰め込まれる。佐山のピアノは作曲時にあったラグタイムへ、よりモダンなリズム・フィギュアを添えて、ジェットコースターにも勝る疾走感でシンフォニーと戯れてみせる。「ガーシュウィンは後世、きっとこんなピアニストが出現するのを予見して、譜面上にそのポテンシャルを落としおいたんです。あるいは神様が彼のペンをつうじ、曲に託宣を仕込んでおいたのかも知れない」。アメリカが今回の作品テーマ。もうひとつの共演曲《アイ・ガット・リズム》の変奏ヴァージョンで佐山が聴かせる、十二音音楽のセリーにも似ためまぐるしいタッチの応酬にも、異端児ガーシュウィンの意地は込められた。
LIVE INFORMATION
モントルージャズフェスティバル・ジャパン・イン・かわさき2014
○11/30(日) 14:00開演
会場:和音楽大学テアトロ・ジーリオ・ショウワ
出演:ORIGINAL PONTA BOX
村上”PONTA”秀一(ds)水野正敏(b)佐山雅弘(p)