


マルチメディア担当者を擁する才能あふれるバンドメンバー
――マット以外のメンバーと役割についても教えてください。
ケイトリン「マー・シーハンはニューヨークでジャズを学んだ、才能あふれるドラマーです。リン・クーアンはコントラバスとエレキベースを担当していて、コントラバス奏者としては台湾でトップだと思います。ポップスも演奏でき、守備範囲の広さも素晴らしい。Zy The Wayのレコーディング、ミキシング、編集、マスタリングにも大々的に関与しています。
マルチメディアに特化したメンバー、ツァイ・ズーヨンもいます。アートワークや写真、MV、グラフィックデザインまで、ビジュアルについては、彼が全て作成しています。彼は詩の朗読者でもあるんです。ライブでは朗読に加え、漢字や歴史的背景を説明し、観客に詩への理解を促します」
――ケイトリンさんの役割も教えてください。
ケイトリン「本当にたくさんのことをしています。作詞も行いますし、このアルバムでは、制作以外も多く担当しました。海外ツアーやSNS、PR活動の調整、配信の手配、全体のマネジメントを担当しているんです」
詩を通じた自己表現であり、ルーツを探究する手段
――「詩経」を音楽的に解釈する際、メソッドや法則に沿っているんですか? あるいは直感的なものなのか、プロセスが知りたいです。
ケイトリン「通常は、メンバーが選んだ詩のリストからマットが気に入ったものを選び、メロディーを作ります。それをベースに、バンドでアレンジと構成を考え、曲に変えていきます。その間、私とツァイは詩が書かれた当時の発音についてリサーチを行います。またレン博士にも相談し、節を繰り返していいか、特定の部分の省略や強調が妥当かなど、さまざまな質問をするんです。作曲の段階で音節が2つだと思っていた言葉が、実は3つだった場合、メロディーも調整しなければいけません。なので、最終的にマットの当初のアイディアと異なる曲になる場合が多いです」
――そこまで中国の歴史・文化と向き合っているのは、文化的ルーツを探りたい気持ちがあるからでしょうか?
ケイトリン「その通りです。台湾そして中国の文化を学びたいと思うようになり、その想いが〈華語文奨学金〉の申請、台湾留学へ繋がりました。『詩経』を学校で学んだ台湾人や中華圏の人は、〈古臭くて最悪だ〉と思うかもしれませんが、私にとっては詩の解釈を通じた自己表現であり、アイデンティティのルーツを探究する手段でもあるんです」

台湾文化の多様性を表現
――近年、台湾ジャズは活発な動きを見せています。また、ヒップホップ・R&Bの人気が高く、その要素の一つとしてジャズに触れる人も増えています。ケイトリンさんはどう思いますか?
ケイトリン「その通りだと思います。ヒップホップとR&Bは、10〜20年前の台湾ではサブカルチャーに過ぎませんでしたが、今はメインストリームとなっています。映画『ラ・ラ・ランド』や漫画『BLUE GIANT』など音楽以外の作品も、影響を与えていると思います。それらに触れた人々が、〈ジャズクラブに行こう〉と思うんです。同時に、リスナーにはヒップホップやR&Bのルーツを掘り下げてほしいとも思います。また、ジャズシンガーを名乗っているのに、実際はポップスしか歌っていないアーティストがいることにも疑問を感じます。大切なのは、ジャズを適切に評価し、質の高い音楽を作ることです」
――Zy The Wayは台湾のラッパーILL MO(老莫)をフィーチャーした楽曲“就當家裡(Velvet Edition)”もリリースしていますね。
ケイトリン「あの曲はもともと私がソロアーティストとして、オーストラリアの作曲家マット・スー(Matt Hsu)、ILL MO、春艶とコラボレーションし、“就當家裡”としてリリースした曲です。コロナ禍の間、メンバーが退屈していたので、実験的なことがやりたいと思い、ポップなR&Bだった原曲をジャズバージョンに変えたんです。ILL MOはMC HotDog(熱狗)やSoft Lipa(蛋堡)など、台湾ヒップホップの先駆者と同時期にラップを始めた、アイコニックな存在です。淡江大学で英語の博士号を取得し、応用英語学科の助教授を務める彼は、ヒップホップを文学として研究しています。アカデミックな姿勢で音楽と向き合っている点は私たちに通じるものがあります」
――ヒップホップには人種的・文化的アイデンティティをレップするカルチャーがありますよね。Zy The Wayにも、台湾ならではの解釈で独自のジャズを奏で、自分たちの文化に誇りを持とうという意志を感じます。
ケイトリン「それは確かに私たちの使命の一つです。台湾には素晴らしいジャズミュージシャンがいますが、伝統的なジャズを演奏している場合が多い。なので、スキルと知識を生かし、台湾の文化的多様性を表現することが目標です。それを実現できる楽器奏者もいますが、ジャズボーカルにおいてはまだいないと思います」