終わりある命を激しく燃やして
セイント・ヴィンセントは〈プライヴェートの切り売り〉という現代ポップ産業の必須項目に毅然とノーを表明しているため、このアルバムで彼女が表現している悲しみの具体的な理由、亡くなった身近な人とは誰なのか、などは明らかにされていない。それでも、特にアルバムの前半からは深い悲しみや絶望が伝わってくる。例えば、〈夜明けが来て 天使たちが降りてきて 息が絶えたあなたを抱き上げるまで 私は一晩中あなたを見ていた〉という“Reckless”の一節は、悲しみに打ちひしがれるセイント・ヴィンセントの姿をストレートに表したものだろう。また“Broken Man”では、人生への絶望と背中合わせの苛立ちや破壊衝動が表現されている。しかしアルバム後半に至ると、本人がいうところの〈地獄の季節〉の向こう側に一筋の光が差してくる。象徴的なのは、アルバム最後を飾る表題曲“All Born Screaming”だ。〈誰もが泣き叫びながら生まれてくる〉という意味を持つこのタイトルは、この世に生まれてきた赤ん坊の生命力と、母から永遠に切り離されてしまったことの悲しみの両方を表現している。とすれば、セイント・ヴィンセントが炎に包まれたアルバムのジャケット写真も、地獄の業火に焼かれる苦しみと、短い命を激しく燃やして生きようとするエネルギーの強烈さの両方を表現しているのかもしれない。
つまり本作は、誰かとの死別をきっかけに自分の死生観を見つめ直し、命ある限り悲しみが絶えないことを受け入れて強く生きることを決意するまでのドキュメントとして聴くことができる。だからこそ、軽快なアフリカ音楽調で始まる“All Born Screaming”が中盤にブレイクを挟み、最後はエクスタティックな4つ打ちのダンス・ビートへと突入するとき、そこには悲しみを抱きしめながら前に進もうとするセイント・ヴィンセントの力強い姿を見い出すことができるのだ。 *小林祥晴
『All Born Screaming』に参加したアーティストの関連作。
左から、マーク・ジュリアナの2024年作『Mark』(Edition)、フー・ファイターズの2023年作『But Here We Are』(Roswell/RCA)
『All Born Screaming』に参加したアーティストの作品。
左から、ウォーペイントの2022年作『Radiate Like This』(Heirlooms)、ケイト・ル・ボンの2022年作『Pompeii』(Mexican Summer)