クラシックにも通ずるPenthouseでの活動
2021年から2022年にかけてはブルーノート東京での公演、「NHK紅白歌合戦」やフジロックへの出演など、角野はそれまで未開拓だったフィールドへ積極的に進出していった。また、2021年11月には大学在学中に結成したシティソウルバンドPenthouseのメンバーとしてもメジャーデビューを果たしている。
Penthouseでの角野の役割はキーボード/ピアノだが、当然クラシックとはプレイスタイルが異なる。ボーカルやギターなど上モノを引き立てる場面もあれば、ジャジーかつソウルフルなピアノソロを披露する瞬間もあるわけだ。ピアニストとしてオーケストラと共演する際でもパート毎で立ち位置が変わることはあるが、ポップスとクラシックでは1曲の演奏時間も曲構成も違う。
だが、Penthouseでの角野の音によくよく耳を傾けてみると、クラシックから距離を置いたアプローチをしているわけはなさそうだ。例えば1stアルバム『Balcony』(2023年)収録のゴスペルナンバー“Live in This Way”では終始ソウルファンクなノリを維持しながら、ピアノソロからCメロあたりではクラシックにも通じる粒立った無数のアルペジオを繰り出している。そこには曲がクライマックスへと向かう前の場面転換としてのアクセントと、ボーカルと並走する伴奏としての役目を担っているようにも感じられる。
また、“Change the world”(2021年)のピアノソロではショパンの“エチュードOp.10-2”を長調に変えて採用していたりと、いたるところに角野節が活かされてる。来年3月にはPenthouseのメンバーとして再び武道館のステージに立つことも決まっているだけに、こちらの活動にも引き続き注目していきたいところだ。
小曽根真も認めるピアニストとして
こうした角野の自由な思考に大きな影響を与えたのが、ジャズピアニストの小曽根真だ。小曽根のキャリアなどは彼の公式サイトに任せるとして、ジャズピアニストの肩書を掲げながらクラシック/ポップスの世界にも進出していく道筋は角野と重なる部分がある。両者がラジオ共演した際には、小曽根は角野について「クラシックからきてて、ここまでジャズの匂いを出せる人って僕が知っている人でほかにいるかな?」「(ジャズの)ノリというか、ここでこのコードを使うっていうツボを知ってるんだよね」とバッハの“メヌエット”をセッションしたのちに語っている(以下の映像、セッション時は2人の出音がちゃんとパンニングされているのでヘッドフォン、またはイヤフォンを推奨)。
そのほかにも坂本龍一、フリードリヒ・グルダ、ブラッド・メルドー、ジェイコブ・コリアーなどいずれも型にとらわれない、自らの興味関心に従って活動するフィールドを拡張していく音楽家たちからの影響を口にしてきた角野は、2024年3月にソニー・クラシカルとのワールドワイド契約を発表。オリジナルに加え、坂本龍一“Solari”やハンス・ジマー“Day One”(映画「インターステラー」の劇伴)なども取り上げた世界デビュー作『Human Universe』を同年10月にリリースした。
直近では、THE FIRST TAKEにて最新アレンジでの“きらきら星変奏曲”、グランドピアノとアップライトピアノを併用したラヴェルの“ボレロ”を披露したのも記憶に新しい。また、NHK Eテレでの特集や東大時代の同級生である数学者の山下真由子との対談、「EIGHT-JAM」への出演など地上波テレビでフィーチャーされる機会も急増。5月に開催された〈MUSIC AWARDS JAPAN 2025〉のオープニングショー〈RYDEEN REBOOT〉への参加、オーパス・クラシック賞(ドイツのクラシック音楽界で最も権威ある音楽賞のひとつ)で優秀若手アーティスト賞と優秀ライブパフォーマンス賞(ソリスト部門)を受賞するなど、すでにキャリアハイと思わせるほどの活躍ぶりだ。
多少ざっくりではあるが角野の活動を追ってみて、改めて自分自身の音楽リスナーとしての在り方についても深く考えさせられた。すべての人に得手不得手があるように、普段は足を踏み入れない領域に向かって一歩を踏み出すのはとても勇気がいることだ。角野や彼のメンターの一人である小曽根の言動に触れると、まだ聴いたことがない、見たことがないものへの興味がどんどんと湧いてくる、そんな気持ちになるのだ。
クラシックでもジャズでもポップスでも歴史のあるものには少なからず既成概念が存在する。そうした決まりごとを理解した〈勇気ある逸脱者〉がいるからこそ、音楽は技術的にも表現的にも進歩していくように思う。角野と彼のピアノが築き上げていくこれからの音楽の未来は、きっと私たちが想像する以上に楽しいものになるはずだ。
参考文献
角野隼斗 公式サイト https://hayatosum.com/
6月にデビュー・アルバムを発表、現役の東大院生でユーチューバーの顔も持つ、角野隼斗とは? https://sheetmusic.jp.yamaha.com/blogs/magazine/interview001
「迷ったらどっちもやる」ピアノコンクールで優勝した東大院生・角野隼斗さんに迫ります https://todai-umeet.com/article/38582
スマホで遊べる音ゲー3選! ゲーマーなピアニスト角野隼斗さんがオススメ https://ontomo-mag.com/article/column/music-game-20200511/
【ピティナ調査・研究】【海外レポート】第7回若いピアニストのための国際マスターコース(角野隼斗さん) https://research.piano.or.jp/report/topics_others/2019/09/sumino_masterclass.html#part1
角野隼斗のピアノ演奏にある自由さの根源 影響受けた様々な“表現”を明かす https://realsound.jp/2022/02/post-967141.html
RELEASE INFORMATION

リリース日:2025年7月14日(月)
品番:SIXC-114
価格:6,600円(税込)
初回仕様:特製スリーブケース付き
TRACKLIST
1. 第1部オープニング
2. ショパン:スケルツォ第1番ロ短調Op.20
3. ショパン:ワルツ第14番ホ短調 遺作
4. ショパン:エチュード第11番イ短調Op.25-11「木枯らし」
5. モーツァルト/角野隼斗:24の調によるトルコ行進曲変奏曲
6. リスト:ハンガリー狂詩曲第2番嬰ハ短調S.244/2(カデンツァ 角野隼斗)
7. 角野隼斗:HUMAN UNIVERSE
8. 第2部オープニング
9. 即興
10. 角野隼斗:追憶
角野隼斗:3つのノクターン
11. NOCTURNE I. PRE RAIN
12. NOCTURNE II. AFTER DAWN
13. NOCTURNE III. ONCE IN A BLUE MOON
14. ラヴェル(角野隼斗編曲):ボレロ
15. J.S.バッハ:主よ、人の望みの喜びよ(カンタータ「心と口と行いと生活で」BWV147より)
16. ショパン:ポロネーズ第6番変イ長調Op.53「英雄」
演奏:角野隼斗(ピアノ)
録音:2024年7月14日 日本武道館(ライブレコーディング)
副音声に角野隼斗によるオーディオコメンタリー収録
特典映像
1. ドキュメント・オブ・武道館
2. MV「角野隼斗:Nocturne I Pre Rain」
3.「角野隼斗:Nocturne II After Dawn~追憶」(MUSIC ON! TV「ONENESS」より)
■購入者特典
タワレコ特典(先着):ポストカード(3種セット)
■購入者キャンペーン
角野隼斗「ピアノ・リサイタル at 日本武道館」のBlu-rayをお買い上げのお客様の中より、角野隼斗の直筆サイン入りコラボポスターを抽選で10名様、コラボポスター(サイン無し)を抽選で20名様にプレゼント!
応募期間:2025年7月10日(木)~2025年8月31日(日)
詳細ページ:https://tower.jp/article/feature_item/2025/04/05/1120
LIVE INFORMATION
角野隼斗 ピアノリサイタル “Klassik Arena”

2025年11月29日(土)神奈川・Kアリーナ横浜
開場/開演:16:30/18:00
問い合わせ:ホットスタッフ・プロモーション 050-5211-6077(平日12:00〜18:00)
公演詳細:https://eplus.jp/hayatosumino/
PROFILE: 角野隼斗

2018年にピティナ・ピアノコンペティションにて特級グランプリ、2020年に東京大学総長大賞を受賞し、一躍注目を集める。2021年にショパン国際ピアノコンクールのセミファイナリストとなり、2025年にはレナード・バーンスタイン賞を受賞するなど国内外で輝かしい実績を重ねている。これまでにシカゴ交響楽団、ポーランド国立放送交響楽団、バンベルク交響楽団、ウィーン放送交響楽団、NHK交響楽団、読売日本交響楽団など、数々の著名オーケストラと共演してきた。東京大学在学中には、6人組シティソウルバンド〈Penthouse〉を結成。2023年よりニューヨークを拠点に活動を展開。2024年には日本武道館にてクラシックピアニストとして史上最多となる13,000人を動員し、音楽とパフォーマンスの新たな可能性を示した。2025年にはヨーロッパ7都市ツアーを実施し、ベルリン・フィルハーモニーを皮切りに、コンセルトヘボウ、ウィーン・コンツェルトハウス、エルプフィルハーモニーなどで世界的ホールへのデビューが予定されている。さらに同年11月、ニューヨークのカーネギーホール、Kアリーナ横浜でのリサイタルも予定。BBCプロムスやラ・ロック=ダンテロン国際ピアノ・フェスティバルなどへの出演も続き、今後はフィラデルフィア管弦楽団、ロサンゼルス・フィル、BBCフィルとの共演も控える。クラシックの高度な技巧に加え、独自の編曲や即興を融合させた演奏スタイルで国際的な注目を集め、YouTubeでは〈Cateen(かてぃん)〉名義で活動。登録者数は148万人超、総再生回数は2億回を突破。デジタル時代のクラシック音楽の発信者として地位を確立している。2024年にはソニー・クラシカルと契約を締結し、世界デビューアルバム『Human Universe』を発表。同作は第39回日本ゴールドディスク大賞〈クラシック・アルバム・オブ・ザ・イヤー〉を受賞し、革新性と芸術性の双方で高く評価された。作曲家としても映画、テレビ、CMなど幅広い分野で活動し、「情熱大陸」「NHK紅白歌合戦」「街角ピアノ」「徹子の部屋」「題名のない音楽会」「アナザースカイ」などのメディア出演や、J-WAVE「TOKYO TATEMONO MUSIC OF THE SPHERES」のナビゲーターも務めている。クラシックに軸を置きながらもジャンルを越えて音楽を追求する、唯一無二の存在として注目を集めている(2025年6月現在)。
角野隼斗 公式サイト:https://hayatosum.com/

