
©steichen tokyo 飯田耕治
酒井健治による音楽は、全体的に作品の世界観を反映するかのように幻想的かつ悲劇的で、ミステリーのような緊迫感をはらんでいた。展開が大きく動く場面では、ある意味現代の作曲家の真骨頂でもある不協和音や不規則なリズム、打楽器や金管楽器などインパクトのある音を効果的に使った。

酒井は3日の会見で「現代を生きる僕たちがどう平家物語を受け止めるか考えていたが、昨今の世界情勢の変化が僕に力を与えてくれた」と語った。平家物語を〈普遍的〉な物語に昇華できたという自負が感じられた。
脚本の田渕久美子はNHK大河ドラマ「篤姫」などの脚本で知られるヒットメーカーだ。事前のインタビューでは「オペラの魅力は、壮大な世界を表現できる楽しさにある。これまで落語や狂言など、さまざまなジャンルに挑戦しました。その度に学びがありましたが、その経験を生かして今回は自分の限界まで取り組みました」と話していた。その言葉通り、平家物語における〈諸行無常〉の世界観を現出。戦争や権力争いに明け暮れる男と男に翻弄される女という〈男女の対比〉を浮き彫りにした。
もちろん、酒井の音楽と田渕の脚本を舞台に落とし込む池内響(平清盛)、川越未晴(徳子)などの歌手陣や下野達也指揮読売日本交響楽団、田尾下哲をはじめとする演出陣も期待以上のパフォーマンスだった。新作オペラ、しかも日本語ということで普段のオペラとは勝手が違う上、酒井の音楽は決して簡単に演奏できる代物ではなかったが、悲劇性を帯びた物語を見事に表現していた。

©steichen tokyo 飯田耕治

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オペラ平家物語の大宮公演は超満員、大盛況のうち幕を閉じたが、11月1・2日には早くも兵庫県立芸術文化センターで、コンサート形式による舞台が上演される。大宮公演で琵琶法師、武神の〈二刀流〉によって獅子奮迅の活躍を見せ、万雷の拍手を浴びた八木は、兵庫公演でも両役を務める。
兵庫公演の指揮者は大宮公演の下野同様、ブザンソン国際指揮者コンクール優勝者としても知られる垣内悠希。オーケストラは平家物語の舞台である京都から、京都フィルハーモニー室内合奏団特別交響楽団が出演する。
兵庫県は平清盛が福原京(現神戸市)に遷都するなど、平家物語ともゆかりのある地である。そんな平家の〈地元〉とも言える地で、出演者らがどのような舞台を見せてくれるか楽しみである。
INFORMATION
新作オペラ「平家物語-平清盛-」(コンサート形式)兵庫公演 ※字幕付
「平家物語」大宮初演(10月4日5日大宮ソニックシティ)に引き続き、今秋(11月1日2日)、待望の世界初演・新作オペラ「平家物語-平清盛-」(コンサート形式・全2幕日本語上演)兵庫公演の開催が決定! ステージの中心には、躍動感溢れる琵琶法師・八木勇征が登場。世界的オペラ作品の大舞台で、ダイナミックで華麗なパフォーマンスを縦横無尽に披露する。
2025年11月1日(土)兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール
開場/開演:17:15/18:00
2025年11月2日(日)兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール
開場/開演:13:15/14:00
脚本:田渕久美子
作曲:酒井健治
演出:田尾下哲
演出補:砂川真緒
衣裳:時広真吾
ヘアメイク:我妻惇子
照明:稲葉直人
音響:奥出幸史
殺陣・時代劇所作指導:滝洸一郎
舞台監督:山田ゆか
合唱指揮:池田真己
殺陣:滝洸一郎
指揮:垣内悠希
管弦楽:京都フィルハーモニー室内合奏団特別交響楽団
合唱団:京都フィルハーモニー室内合奏団特別合唱団
児童合唱:宝塚少年少女合唱団
■主要キャスト
平清盛(バリトン):岩田健志
平徳子(ソプラノ):川越未晴
平重衡(テノール):工藤和真
平時子(メゾソプラノ):池田香織
後白河(バリトン):氷見健一郎
高倉帝(テノール):新堂由暁
前子(メゾソプラノ):林眞暎
源頼朝(バリトン): 温井裕人
源義経(カウンターテナー):上村誠一
源義朝(テノール):市川浩平
琵琶法師:八木勇征
主催:RENAISSANCE CLASSICS
公演オフィシャルサイト:https://classics-festival.com/rc/performance/heike/