現代に受け継ぐスピリット
スタックスの倒産後、ステイプル・シンガーズは同郷シカゴのカーティス・メイフィールドが主宰するカートムから彼の手掛けたサントラ『Let’s Do It Again』(75年)を発表。続いてワーナーに入社し、ステイプルズと名乗って世俗に染まったグループとなるなかでメイヴィスはソロ活動を再開する。そこでカートムからソロとしてカーティス制作の映画サントラ『A Piece Of The Action』(77年)を出し、続いてワーナーからマッスル・ショールズ録音を含む『Oh What A Feeling』(79年)をリリースした。80年代に入るとグループはステイプル・シンガーズに名義を戻し、プライヴェート・アイから2枚のアルバムを発表。その後、グループの活動が失速していく中でメイヴィスを自身のレーベルに招き入れたのがプリンスだった。
ペイズリー・パークの所属となったメイヴィスは、89年に『Time Waits For No One』、93年に『The Voice』と、プリンスが制作に関わった2枚のアルバムをリリース。プリンスのファンクを全身で受け止め、新しい時代に順応するメイヴィスに賞賛が集まった。が、プリンスとワーナーとの確執もあって2枚目のアルバムがプロモーションされず、セールスは惨敗。この後、マヘリア・ジャクソンのトリビュート・アルバムを出したのは、原点回帰であると同時に自分への慰めだったのではと邪推したくなる。
ステイプル・シンガーズは99年に〈ロックンロールの殿堂入り〉を果たすも、2000年に父ポップスが他界したことで活動停止。父の死で何も手につかなかったというメイヴィスも、この後しばらく音沙汰がなくなってしまう。だが、彼女は再起する。悲しみを乗り越えて自主制作した『Have A Little Faith』は、いくつものレーベルに断られた末、2004年にアリゲーターから発表。このゴスペル・ソウルなアルバムによって状況が好転した。アリゲーターで予定していた次作こそ未発に終わったが、次に契約したアンタイが現在に至るまでメイヴィスをシンガーとして安泰に導くことになるのだ。
アンタイでは、亡き父の作品にも関わったライ・クーダーと組んだ『We’ll Never Turn Back』(2007年)を第1弾としてリリース。これを筆頭に、現代社会の問題に過去の体験を重ね合わせ、キング牧師への想いも抱きつつ、トラディショナルなソウル、ゴスペル、ブルースを歌っていく。とりわけ、ウィルコのジェフ・トゥイーディーとは好相性を示し、『You Are Not Alone』(2010年)、『One True Vine』(2013年)、1作挿んで『If All I Was Was Black』(2017年)の3作が彼のプロデュース。太く包容力のある声から滲み出る深みは公民権運動の時代から歌い続けてきた彼女ならではで、年輪を刻んだその声は新たなトレードマークとなった。ステイプル・シンガーズのスピリットを受け継ぎ、現代に再現するアンタイでのメイヴィスは、いわば〈ひとりステイプル・シンガーズ〉。この間、姉のクレオサとイヴォンヌ、兄のパーヴィスも天国に導かれ、現在は本当にメイヴィスひとりだけになってしまったが、神様はまだ彼女を現世にとどめておきたいのだろう。
2019年には、ベン・ハーパーと組んだ『We Get By』、ノラ・ジョーンズを迎えたシングル“I’ll Be Gone“をリリース。近年は所縁のリヴォン・ヘルムと2011年に行ったライヴ・セッションの音源もリリースされたが、これを含めてアンタイからは3枚のライヴ・アルバムを発表。ライヴ活動も積極的にこなしているメイヴィスなのだ。2010年代後半にはボブ・ディランのツアーにも同行している。また、この10年の間には、ゴリラズ、ドリー・パートン、バディ・ガイ、ラン・ザ・ジュエルズなどとのコラボでも気を吐いた。
そして2025年。混迷する世界に生きるなかで溜め込んだ思いを投影したのが、新作『Sad And Beautiful World』である。怒りを滲ませながらも世の安寧を願うように、大らかに説き伏せるように歌うメイヴィス。荘厳さの漂うその歌には黒人として生きてきた歳月分の重みがある。そんな彼女の音楽に接すると、〈ブラック・ミュージック〉という言葉に対しても改めて慎重になる。
左から、2022年のサントラ『Summer Of Soul(...Or, When The Revolution Could Not Be Televised)』(Legacy)、〈Wattstax〉の音源を網羅した編集盤『Soul’d Out: The Complete Wattstax』(Craft)、ザ・バンドの78年作『The Last Waltz』(Warner Bros.)
メイヴィスの参加作を一部紹介。
左から、ポップス・ステイプルズの2015年作『Don’t Lose This』(Anti-)、ベンジャミン・ブッカーの2017年作『Witness』(ATO)、ゴリラズの2017年作『Humanz』(Parlophone)、ホージアの2019年作『Wasteland, Baby!』(Columbia)、シェリル・クロウの2019年作『Threads』(Valory)、ラン・ザ・ジュエルズの2020年作『RTJ4』(BMG)、ジョン・バティステの2021年作『We Are』(Verve)、バディ・ガイの2022年作『The Blues Don’t Lie』(Silvertone)
メイヴィスの参加した近作。
左から、モノネオンの2024年作『Quilted Stereo』(Court Square)、ドゥービー・ブラザーズの2025年作『Walk This Road』(Rhino)