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開放的なリスニング体験

 その『MOTOMAMI』で再度ラテン・グラミーの〈最優秀アルバム〉など全4部門を受賞し、グラミーでも引き続きラテン部門で受賞。もはや何をしても許される環境が整っていたのは確かだが、3年以上も掛けて完成された『LUX』における、いい意味でのやりたい放題は、遥かにファンの予想や期待を超えていた。まず一聴して明らかなのが、クラシック楽器の導入だ。ポップスと同様に学生時代から親しみ、学んできた自身の一部ともいえるクラシック音楽やオペラ歌唱を改めて自身の作品に取り入れたかったそうだ。シガー・ロスやベン・フォレスト作品にも関わるダニエル・ビャルナソンの指揮の下、ロンドン交響楽団が全面参加。全4章から成る作中では〈女性性の神秘〉〈変容〉〈精神性〉といったテーマが描かれ、本人が「修道女から娼婦まで、あらゆるフェミニスト」に触発されたと語る通り、中世ドイツの修道女ヒルデガルト・フォン・ビンゲンから旧約聖書に登場する預言者ミリアム、ジャンヌ・ダルクまで女性の聖人や思想家が多く登場する。楽曲はそれら登場人物それぞれの言語で歌われており、つまりスペイン語のみならず、カタルーニャ語、ポルトガル語、ドイツ語、英語はもちろん日本語まで、実に14か国語を駆使。各言語の翻訳者とやりとりしながら表現を工夫し、フレーズを調整し、リズムを変えるなど、非常に根気を要する作業だったという。“Porcelana”での日本語を聴けば、そのこだわりと成果がしっかりと感じられるのではないだろうか。

 前作と同様にアメリカ人プロデューサーのノア・ゴールドスタイン(フランク・オーシャン、カニエ・ウェスト他)とディラン・ウィギンズ(ジャスティン・ビーバー、カリ・ウチス他)の2人が、アルバムの全面に参加。さらに前述のエル・ギンチョやファレル・ウィリアムス、ダフト・パンクのギ=マニュエル、ライアン・テダー、シャルロット・ゲンスブール、アンドリュー・ワイアットなどなど多数の才能が楽曲ごとに関わっている。リード・シングル“Berghain”には、以前から交流のあるビョークとイヴ・トゥモアがゲストで参加。トレンドとは一線を画す独自のアヴァン・ポップを開拓し続けてきたビョークとロザリアとの相似性を大いに感じるのは筆者だけではないだろう。

 なお、ストリーミング版は15曲のみだが、フィジカル盤には全18曲を収録。このたびリリースされる日本盤CDには歌詞対訳も付けられているので、多言語が入り混じるリリックを追いながら鑑賞できるのが非常にありがたい。新谷洋子氏による詳細な解説も、より作品への理解を深めてくれるのではないかと思う。重厚かつ込み入った、心血が注ぎ込まれた作品でありながら、なぜだか肩肘張らずに素直にエキサイティングに聴かせてくれる。そして全編からは、フラメンコを踊るかのように背筋を伸ばしたロザリアが、こちらを一心に見つめているかのようでもある『LUX』。そんな金縛りのような強烈な魔力を感じつつも開放的なリスニング体験には、終始ときめかずにはいられない。

ロザリアが客演した作品を一部紹介。
左から、J・バルヴィンの2018年作『Vibras』(Universal Latino)、ジェイムズ・ブレイクの2019年作『Assume Form』(Polydor)、ジャックボーイズの2019年作『JACKBOYS』(Cactus Jack/Epic)

ロザリアが参加した作品を一部紹介。
左から、アルカの2020年作『KiCk i』(XL)、ベイビー・キームの2022年作『The Melodic Blue』(pgLang/Columbia)、ラウ・アレハンドロの2022年作『SATURNO』(Sony Latin)

『LUX』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、エル・グィンチョの2016年作『Hiperasia』(Everlasting)、エストレージャ・モレンテ&ラファエル・リケーニの2024年作『Estrella & Rafael』(Universal Spain)、ワンリパブリックのベスト盤『The Collection』(UMe)、ファレル・ウィリアムズの2024年のサントラ『Piece By Piece』(Columbia)、ヴェネチアン・スネアズの2005年作『Rossz Csillag Alatt Született』(Planet Mu)

『LUX』に客演したアーティストの作品を一部紹介。
左から、ビョークの2022年作『Fossora』(One Little Independent)、イヴ・トゥモアの2023年作『Praise A Lord Who Chews But Which Does Not Consume; (Or Simply, Hot Between Worlds)』(Warp)、カルミーニョの2025年作『Eu Vou Morrer De Amor Ou Resistir』(Sony Portugal)