華やかな都市生活を享受できなかった人たちのリアルがそこにあった
以下はあくまで憶測になるが、もともと渋谷系的なバンドとして出発したサニーデイは、通俗化された渋谷系のイメージへの逆張りとして『若者たち』を作り上げた。この時点ではまだネタとして懐古趣味を楽しんでいる気配もあったが、どこか腹を括ったと感じられる『東京』ではレトロスペクティブなサウンドがより必然的なものとして鳴らされた。ようはまだ〈渋谷系側からの視点〉だった逆張りやネタとしての音楽から脱却したからこそ、お洒落で先端的な都市とは対極にある〈日常的でノスタルジックな東京〉というイメージをアルバムに付与したかったのではないだろうか。
それゆえ収録された楽曲のどの歌詞でもたいてい街には繰り出しているものの、半径5メートル程度の淡い日常や感情を描いているだけで、都会の煌びやかさはどこにも感じられない。もっとも、当時の曽我部は「普通に過ごしている中でフッと覚醒する瞬間が一番好き」というような発言をしていたので、それが彼のリアルだったのだろうし、白状すれば華やかな都市生活を享受できていなかった僕(そしておそらくほとんどの若者たち)のリアルでもあったのだ。
サニーデイ・サービスのアルバム『東京』における〈東京〉について思いを巡らせてきたが、それは〈過去と現在の時間が重なったトポス〉のようでもあり、渋谷系に対する静かなカウンターのようでもあった。いずれにせよ明確な解答というわけではないのだが、リリースから30年経ったいまでさえ、まだ答えがないならないでいいような気もする。きっと〈いつかは冬が過ぎ春が来て/忘れてしまった頃に思い出す〉のだから(“いろんなことに夢中になったり飽きたり”より)。
PROFILE: 北爪啓之
1972年生まれ。1999年にタワーレコード入社、2020年に退社するまで洋楽バイヤーとして、主にリイシューやはじっこの方のロックを担当。2016年、渋谷店内にオープンしたショップインショップ〈パイドパイパーハウス〉の立ち上げ時から運営スタッフとして従事。またbounce誌ではレビュー執筆のほか、〈ロック!年の差なんて〉〈ろっくおん!〉などの長期連載に携わった。現在は地元の群馬と東京を行ったり来たりしつつ、音楽ライターとして活動している。NHKラジオ第一「ふんわり」木曜日の構成スタッフ。