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大瀧詠一との相思相愛な必然が生み出した『Ring-a-Bell』

もちろん、〈あの大瀧詠一がプロデュース?〉という驚きはあったろう。この時期、大瀧は自身の新作制作はもとより楽曲提供さえおこなっていなかった。だが、聴けば誰もが納得した。“君は天然色”さながらの三連リズムにハーモニー、濃厚なリバーブに音の密度の高いウォールオブサウンド……そう、大瀧サウンドてんこもりの仕上がりに、それこそ“うれしい予感”がしたからだった。

そして、その〈予感〉どおりに、“うれしい予感”を含む約5年ぶりの渡辺満里奈のオリジナルアルバム『Ring-a-Bell』が、まるまる大瀧のプロデュース作品として届けられたのだ。1996年3月21日、今からちょうど30年前のことだった。

という一連の流れを踏まえると、渡辺満里奈に対して、80年代のアイドル全盛期、ニューミュージックの時代から、渋谷系や再発ブーム、クラブカルチャーを含めた90年代J-POP多様化の時代へ橋渡しとなった象徴的存在という評価は確かに大いに頷ける。むろん、この前年にソニー傘下に設立されたOo Records(ダブルオー・レコード)に大瀧が取締役として就任していた伏線もあった。“うれしい予感”と『Ring-a-Bell』もそのOo内Yoo-Loo(ユー・ルー)からのリリースだ。

その点でも、主に90年代以降、沈黙状態に入っていた大瀧が能動的に表舞台に戻ってくる一つのきっかけを作ったという意味で、渡辺満里奈の“うれしい予感”と『Ring-a-Bell』は歴史的にも大きな意味を持つ。90年代、音楽の枝分かれが進み、世代を超えた共通因子がなかなか見つけにくくなった時代に、テレビアイドルを出発点とする渡辺満里奈が大瀧と繋がるのは理想的なことだったし、実際、CM曲を多数手掛けてきた大瀧にとって渡辺満里奈は自身の作品を混迷の90年代に顕在化させるにピッタリのポップアイコンだったに違いない。

当の渡辺満里奈にとっては憧れの大瀧にプロデュースしてもらえた嬉しさで胸がいっぱいだったようで(今回公開されたFLASHのインタビュー記事を参照)、大瀧に『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』がいかに好きかを伝えたら、その場で佐野元春に曲を書いてもらうことになったとか、杉真理が編曲を手がけることになったとか、微笑ましいムードで制作が進んでいったことを明かしている。大人たちのお膳立てででっちあげられた作品などではなく、言わば相思相愛的な必然が生み出した作品だったのだ(なお、主に80年代以降、大瀧が楽曲提供をした女性アイドルには小泉今日子や薬師丸ひろ子などもいるが、本格的に全面プロデュースしたのは松田聖子と渡辺満里奈くらい)。

 

新たな曲順が伝えるナイアガラファミリーの仕事と鮮やかな対比

そんな『Ring-a-Bell』の30周年を記念してデラックスエディションがCDとアナログレコードでリリースされた。収録されているのはオリジナル盤で聴けた6曲に加え、大貫妙子が当時書き下ろした“高い空遠い街”と、渡辺と大瀧がデュエットした“冬の星座(Duet with 大滝詠一)”(ウィリアム・ヘイスが作詞作曲したアメリカのポピュラーソングをもとにした曲で、日本では堀内敬三が作詞した唱歌として知られている)という2曲の未発表音源も追加されている。カメラを手にしてベッドに寝そべる渡辺を桐島ローランドが撮影したモノクロ写真のジャケットはそのままながら、今回のリイシュー盤は岡田崇が新たにデザインを担当した。

それに伴い曲順もオリジナル盤とは少し異なる。「ちびまる子ちゃん」の作者・さくらももこが作詞し、もちろん、作曲・編曲(CHELSEA名義)は大瀧、そして井上鑑がストリングアレンジを手掛けた“うれしい予感”のアルバムバージョンを1曲目に、萩原健太が作曲と編曲を、能地祐子が作詞を担当、コーラスに伊藤銀次、その伊藤がプロデュースしていたウルフルズの面々が参加した“金曜日のウソつき”(オリジナル盤では1曲目)が続く。渡辺の軽やかな独り言がアーシーでグルーヴ感満載の演奏に乗った佳曲だ。

3曲目“ばっちりキスしましょ”はナンシー・シナトラがヒットさせた“いちごの片想い(Tonight You Belong To Me)”の日本語詞カバー(能地が日本語詞を担当)。編曲は井上が担当している。そして、佐野元春が作詞作曲、多羅尾伴内(大瀧)が編曲、井上がストリングアレンジを手掛けた“ダンスが終る前に”が4曲目に控え、3~4と軽妙なラテン~ボッサな雰囲気でまとめられている。ここまでがアナログレコードのA面。

B面は(CDでは5曲目と6曲目)今回注目の未発表音源“高い空遠い街”と“冬の星座(Duet with 大滝詠一)”から始まる。“高い空遠い街”の作詞作曲は大貫だが、編曲は多羅尾伴内、ストリングアレンジは井上という組み合わせで、シュガー・ベイブのアルバム『SONGS』がナイアガラ・レコードからリリースされていた縁があるにせよ、ここで再び邂逅していることはなかなか感慨深い。

さらに、スライドギターが心地よいカントリータッチな“冬の星座”(多羅尾伴内編曲)が、当時のアメリカーナ再評価の時代と連動したような心地よい波動をもたらし、ナイアガラファミリーの杉真理、KANとの仕事で知られる嶋田陽一が編曲をした“約束の場所まで”(高木一江、能地が作詞を担当、松田聖子“瑠璃色の地球”を書いた平井夏美が作曲を担当)にバトンを渡していく。

そして、ラストはオリジナル盤でも異彩を放っていた金延幸子“あなたから遠くへ”のカバー。金延のアルバム『み空』では細野晴臣が編曲しているが、ここでは多羅尾伴内が編曲を、優美なストリングスは井上がアレンジした。オリジナル盤では最後に置かれていた“うれしい予感”をオープニングにもっていき、マイナー7thのコードが効果的な情緒ある原曲の良さを活かしたこの“あなたから遠くへ”で終わることによって前半4曲の朗らかで楽しげな雰囲気に対し、後半は詩情豊かな風合いになっている。その対比が鮮やかに感じ取れるのが今回のリイシュー盤の大きな特徴と言っていい。