『Silk Degrees』で試みたロックのアップデート
1960年代の前半からブルースをベースに活動を行っていたボズ・スキャッグスだが、1970年代に入ると次第にソウル色を強めた音楽性へと変化。スタイリッシュさの度合いを高めていくのだが、その到達点が彼にとって7枚目となるアルバム『Silk Degrees』である。
モータウンの裏方でシンガーでもあるジョニー・ブリストルをプロデューサーに迎えた前作『Slow Dancer』(1974年)も黒いフィーリングを湛えた好盤だったが、『Silk Degrees』はその延長線上にありつつも数段ソフィスティケートされたサウンドを展開している。前作がデヴィッド・T・ウォーカーやジェームス・ギャドソンらソウル~ジャズ系の名手たちを中心とした演奏だったのに対して、同作ではのちにTOTOを結成するデヴィッド・ペイチ、ジェフ・ポーカロ、デヴィッド・ハンゲイトらLAの若手プレイヤーたちが音作りの中核を担ったことが大きな理由に違いない。彼らはソウルを土台にロック、ブルース、ジャズなどの要素を交えながら、その差異を絶妙なバランス感覚で見事にクロスオーバーさせたスタイルの音楽を作り上げている。
そしてまた代表曲の“Lowdown”や“What Can I Say”でのボズのボーカルは、ソウルフルな滑らかさを持ちながらも感情過多にならず、ややクールダウンした表情で楽曲のなかに佇んでいる。それはロックやソウル特有の歌い上げるような表現ではなく、サウンド全体の均衡を保つための要素として存在しているのだ。むしろリズムが作り出すグルーヴのほうが前景化しているという意味では、後年のヒップホップに通じるような感覚さえあるのが興味深い。
ここで『Silk Degrees』の果たした最大の功績について(極論めいた)私論を述べるならば、それはつまりロックを〈若者がカタルシスを発散するための音楽〉から、〈成熟したリスナーのための日常使いの音楽〉へと更新したということに尽きるだろう。家庭のオーディオやカーラジオで繰り返し聴かれることを前提とした〈生活の一部として機能する音楽〉とでもいえばいいのか。当然ながらそこでは楽曲のインパクトや大衆性以上にサウンドとしての洗練や調和が必要とされるわけだが、ボズはそうした音作りにきわめて自覚的だったように思える。
私的にはこの〈洗練や調和〉はロックが単純に円熟した結果というよりも、むしろ既存のロックに対する軽やかなアンチテーゼだったのではないかと思っている。ハードロックの大音量やプログレの構築美、グラムロックの演劇性など、当時のロックのメインストリームはいかに非日常的な、過剰な体験を生み出すかということを競い合っていた感がある。そうした流れとは一線を画す活動を行っていたボズ・スキャッグスは、聴き心地のよいソフトかつメロウなサウンドによって日常空間に溶け込むことでロックのアップデートを試みたのだ。
それから50年を経た現在では、モバイル端末の進化や配信サービスの普及によって、音楽を作品としてだけではなく日常の空気や気分を彩るものとして聴く機会が増えている。そう考えると『Silk Degrees』が提示した音楽のあり方はむしろ現代だからこそより自然に馴染むのではないだろうか。ボズは1976年の時点で、これから音楽がどのように〈聴かれていく〉のかをすでに感覚的に捉えていたのかもしれない。
LIVE INFORMATION
BOZ SCAGGS
ONE FOR THE ROAD JAPAN TOUR 2026

2026年5月22日(金)東京・SGCホール有明 ※-BLUE NOTE TOKYO COLLECTION-
開場/開演:18:00/19:00
主催:J-WAVE/TOKYO FM
2026年5月24日(日)宮城・東北大学百周年記念会館 川内萩ホール
開場/開演:17:30/18:00
主催:スパイスコミュニケーション/仙台放送/Date fm
2026年5月26日(火)愛知・岡谷鋼機名古屋公会堂
開場/開演:18:30/19:00
主催:CBCテレビ
2026年5月28日(木)福岡・福岡サンパレス ホテル&ホール
開場/開演:18:00/19:00
主催:KBC九州朝日放送/FM FUKUOKA/LOVE FM
2026年5月30日(土)広島・上野学園ホール
開場/開演:16:00/17:00
主催:中国放送/広島エフエム放送
2026年6月1日(月)大阪・グランキューブ大阪
開場/開演:18:00/19:00
主催:FM COCOLO/FM802
2026年6月4日(木)・5日(金)東京・Kanadevia Hall(TOKYO DOME CITY HALL)
開場/開演:18:00/19:00
主催:J-WAVE/TOKYO FM
■チケット料金(各税込)
S席:17,000円
A席:16,000円
※Kanadevia Hall公演は別途ドリンク代
協力:ユニバーサル ミュージック
企画・招聘・制作:ウドー音楽事務所
公演ページ:https://udo.jp/concert/BozScaggs26
RELEASE INFORMATION
リリース日:2026年5月27日(水)
品番:SICP-10164
価格:4,840円(税込)
完全生産限定盤
■日本独自企画
①2023年に本国でリマスタリングされた最新音源を使用
②高音質SA-CDステレオ層と、CDステレオ層のハイブリッドディスクを採用 ※通常のCDとしてもお楽しみいただけます
③CD層にはボーナストラックとしてライブ音源3曲を収録
④USオリジナルLPを再現した7インチ紙ジャケット仕様
⑤日本初発売時のLP帯を再現
⑥シングル盤復刻ジャケット(4種類)を封入
⑦日本版ブックレット:ボズ本人によるライナーノーツ翻訳/新規解説(金澤寿和)/歌詞・対訳付き
TRACKLIST
1. What Can I Say
2. Georgia
3. Jump Street
4. What Do You Want The Girl To Do
5. Harbor Lights
6. Lowdown
7. It’s Over
8. Love Me Tomorrow
9. Lido Shuffle
10. We’re All Alone
11. What Can I Say (Live)※
12. Jump Street (Live)※
13. It’s Over (Live)※
※はCD層のボーナストラックです。SA-CD層には含まれません
リリース日:2026年5月27日(水)
品番:SICP-10165
価格:4,840円(税込)
完全生産限定盤
■日本独自企画
①2023年に本国でリマスタリングされた音源を使用
②高音質のSA-CDステレオ層と、CDステレオ層のハイブリッドディスクを採用 ※通常のCDとしてもお楽しみいただけます
③USオリジナルLPを再現した7インチ紙ジャケット仕様
④日本初発売時のLP帯を再現
⑤シングル盤復刻ジャケット(4種類)を封入
⑥日本版ブックレット:日本盤LP発売時のライナーノーツ/新規解説(中田利樹)/歌詞・対訳付き
TRACKLIST
1. Jojo
2. Breakdown Dead Ahead
3. Simone
4. You Can Have Me Anytime
5. Middle Man
6. Do Like You Do In New York
7. Angel You
8. Isn’t It Time
9. You Got Some Imagination
PROFILE: 北爪啓之
1972年生まれ。1999年にタワーレコード入社、2020年に退社するまで洋楽バイヤーとして、主にリイシューやはじっこの方のロックを担当。2016年、渋谷店内にオープンしたショップインショップ〈パイドパイパーハウス〉の立ち上げ時から運営スタッフとして従事。またbounce誌ではレビュー執筆のほか、〈ロック!年の差なんて〉〈ろっくおん!〉などの長期連載に携わった。現在は地元の群馬と東京を行ったり来たりしつつ、音楽ライターとして活動している。NHKラジオ第一「ふんわり」木曜日の構成スタッフ。

