ジャンルの根源を問う姿勢
端的に言えば往時のR&Bへのオマージュ。だが、それを単なるオマージュに終わらせず、現代のR&Bへと昇華させているのが、A&Rとしてアルバムを総轄し、演奏や楽曲制作も担うクリス・リディック・タインズである。“Folded”では、アンドレ・ハリス、DK・ザ・パニッシャー、ドン・ミルズと共同制作しているクリスは、レオン・トーマスとの制作デュオ、ラスカルズの片割れ。“Folded”と並ぶ昨年のR&Bヒット“Mutt”で話題のレオンも、今回の新作では“Sweet Nuthins”という甘いスロウ・ジャムでデュエット相手を務めている。
アルバムではカーディBやビッグ・ショーンを招きながら、ゲストや制作陣の多くを、現在も影響力を持つR&Bやヒップホップのレジェンドが占める。その顔ぶれからも新作の狙いどころは明らかだが、以前から「ストレートなR&Bを歌っている」と公言しているケラーニは、ミックステープ『While We Wait』シリーズでも往時のR&Bに愛を示してきた。ただ、〈R&Bは死んだ〉などの流言飛語や〈オルタナティヴR&B〉という無価値なラベリングからの解放、生成AIが跋扈する音楽業界への反発を創作の原動力とした今作は気迫が違う。マルチレイシャルで、パンセクシュアルと公言しているケラーニは多方面にリーチする曲を歌ってきたが、今回は改めてR&Bというジャンルの根源を問うような姿勢を見せているのだ。そうした真っ直ぐな思いが、アルバムの表題(セルフ・タイトル)にも反映されたのだろう。
ステレオタイプスが制作に関わり、ミッシー・エリオットが賑やかしを加える“Back And Forth”は、表題も含めてアリーヤへのトリビュートだと解釈したくなる一曲。また、アルバム全編を通して楽曲制作の鍵を握る元アンダードッグス一派のアントニオ・ディクソンが手掛けた“Out The Window”は、かつて彼が関わったオマリオンの“I’m Tryna”を思い起こさせる。そのディクソンを重用していたベイビーフェイスらの制作曲“Shoulda Never”がアッシャーとのデュエットとくるから豪華極まりない。リル・ウェイン客演の“Anotha Luva”は、リッチ・ハリソンの制作らしい、エイメリーを彷彿させるチップマンク・ソウルで、これらの曲が聴き手を2000年代前半へと連れ戻す。