Photo: Stephan Lupino

 

 チェロ2本でカヴァーしたマイケル・ジャクソンの《スムーズ・クリミナル》のヴィデオで一躍世界的な人気者になってから早4年。クロアチア出身のルカ・スーリッチステファン・ハウザーのコンビ、2CELLOSが新作『CELLOVERSE』を発表した。

 豪華ゲストが大挙参加した前作とは異なり、今回のゲストは1名のみで、プロデュースも自ら手がけたアルバムだ。「ジャンルの境界線を壊し、異なるジャンルの音楽をつなぐ」(ルカ)というコンセプトで、アイアン・メイデンAC/DCといったハード・ロックとクラシックのマッシュアップをはじめ、ミューズレディオヘッドマムフォード&サンズポール・マッカトニー、マイケル、そして映画『インセプション』の音楽などがチェロ2本で料理されている。加えて、自作も1曲あり、ファンの造語という“チェロの宇宙”を意味する曲名がアルバムの表題にもなった。

2CELLOS Celloverse Sony Music Japan International(2015)

 アイアン・メイデンの《トゥルーパー》は《ウィリアム・テル序曲》と組み合わせての編曲。ロック・ギターと聞き違えるソロに驚くが、チェロの低音の迫力も凄い。前作で組んだ大物プロデューサー、ボブ・エズリンから「どうやってもっと広がりがあって力強いサウンドを作り出すかを学んだ」(ステファン)経験が生かされている。「僕らはラップトップで聴いたサウンドもしっかりチェックする。だって、みんながヴィデオを観るのはそこでだからね」(ルカ)とは、YouTubeで人気を得た彼ららしい。本作は全曲のヴィデオを作るそうだが、映像作品集として売るためでなく、あくまでファンへのアクセスの「民主的な」手段なのだ。「僕らにとって最も重要なのはYouTubeなんだ。誰でも見られるからね」とルカは言い切る。

 ヴィデオといえば、AC/DCのカヴァー《サンダーストラック》は 《スムーズ・クリミナル》を凌ぐ再生回数を記録した。中世の宮廷音楽会で彼らが激しい演奏を聞かせて貴族を唖然とさせる内容だが、実のところ僕らの知るクラシック音楽の概念が成立したのは19世紀だから、当時の演奏会の雰囲気はもっと猥雑だったろう。彼らもそのことはわかっている。「ああ、パガニーニモーツァルトは当時のロック・スターだよ。元々はエンターテインメントの音楽だった。今はそれが何か別のものにされてしまった」とステファンが言うように、彼らにとって音楽は常にアートとエンターテインメントの両面を持つものなのだ。「僕らのショウはいつもクラシックの曲で始めるんだけど、最初に『クラシックのコンサートではないので、リラックスしていいですよ』と言うんだ。みんな笑って、たちまちリラックスして楽しんでくれるよ」(ルカ)。