巨匠ジョルジオ・モロダー、悠々とカムバックする75歳!!
あの〈American〉シリーズで絶賛を浴びたジョニー・キャッシュや、熱狂的ファンが表舞台に呼び戻したロドリゲスを筆頭に、スランプに陥っていたり活動を休止していたために、人々の記憶から消えかけていたシニア世代のミュージシャンが復活を遂げ、再評価された例は過去に何度もあったが、いよいよこの男に順番が巡ってきたらしい。そう、ダンス・ミュージックが音楽界を席巻しているなか、ジョルジオ・モロダーが、75歳にして30年ぶりとなるソロ名義のアルバムを送り出したのである。その名もずばり『Deja Vu』。
「なぜって〈deja vu(既視感)〉という言葉は本作をうまく表していると思ったのさ。姿を消していた男がまた現れたぞ!と宣言しているんだよ」。
GIORGIO MORODER Deja Vu Giorgio Moroder/RCA/ソニー(2015)
タイトルをそう説明するジョルジオに転機が訪れたのは、2012年のこと。知人の依頼でDJを体験する機会を得た彼は、しばし失っていた音楽への情熱を取り戻し、そこにタイムリーなダフト・パンクからのコラボ依頼が舞い込む。その成果がご存知、みずから人生を回想する曲“Giorgio By Moroder”(『Random Access Memories』収録)だ。
「正直言って少々がっかりしたんだ(笑)。コラボをしたいと連絡をもらって、〈一緒に音楽を作れるのか! おもしろいことになりそうだ〉と興奮してパリにある彼らのスタジオを訪れたのに、〈人生を振り返ってほしい〉と頼まれて。結果的には、ディスコをオマージュする素晴らしい曲になったけどね」。
大きな注目を浴びたこのコラボを機に新たにレーベル契約を果たした彼は、「最近の若者の心を理解しようにも所詮無理だから(笑)」と、自然に自分の中から生まれるままに任せて『Deja Vu』を作ったというが、モダンでありながらヴィンテージ感満々という、絶妙なバランスを見い出しているところは流石! ディスコをシンセティックな音で塗り替えてエレクトロニックなダンス・ミュージックの礎を築き、80年代にかけてメガヒットを続発してきた名人は、休業中もヒット曲のチェックを怠っていなかったという。現行のEDMも大好きなんだそうで、オハコのディスコからそのEDMに至る道程を辿ったようなアルバムに仕上げている。
「〈若さを保つには踊らなくちゃ〉というのが本作のメッセージだね(笑)。少なくとも僕自身に関しては、音楽をやるうえで年齢は関係ない。僕はあらゆるジャンルの膨大な量の音楽を聴いてきた。ロックもヒップホップもメタルも。カントリーだけは苦手だけどね! でもやっぱり、なかでもダンス・ミュージックが好きでたまらないから、僕にとってこれは仕事なんかじゃないんだよ」。
とはいえどの曲も〈トラック〉ではなく、簡潔でキャッチーなポップソングとして成立させていることも、特筆すべき点だろう。「クラブ用には別途リミックスを用意するつもりだから、アルバムとは切り離して考えているんだ。こっちはラジオでかかるよう、耳触りがいい、聴きやすい曲にしないとね」とジョルジオ。それにポップソングとしての完成度の高さは、コラボレーターの選択とも無関係ではないはず。曲ごとに歌い手を変えるという昨今のダンス・プロデューサー的なフォーマットを踏襲した本作には、ソングライターとしての実力も備えた、現代のポップスターを豪華に起用。シーアにチャーリーXCX、フォクシーズ、アーバン界を代表するケリス、USの新進気鋭であるマシュー・コーマとミッキー・エッコなどなどの名前があり、なるほど、彼が音楽界の動向をフォローしていたことは明白だ。
「思えばドナ・サマーからデビー・ハリーやデヴィッド・ボウイまで、いつも偉大なシンガーとコラボしてきたから僕は本当にラッキーだったし、いまも相変わらずラッキーなのさ(笑)。アルバムに着手してすぐコラボを快諾してくれたのが、シーアだった。“Chandelier”がヒットする前から僕は彼女が大好きで、そりゃうれしかったよ。ブリトニー・スピアーズも、スザンヌ・ヴェガの“Tom's Diner”のカヴァーで驚くべきパフォーマンスを見せてくれたし、全員がいまのシーンにおける最上級の歌い手だと言えるね」。
さらに極め付けは、ジョルジオ直系の音で歌い続けてきたダンス・ポップの女王カイリー・ミノーグの参加か? もっとも、こうも大物が揃うと全員とスタジオでセッションすることは叶わずに、主にファイルのやりとりで作業を敢行したそうだが、常に未来の音を模索してきた彼はアナログ・スタイルにまったくこだわっておらず、テクノロジーの進化を大歓迎している。
「いまは音質もどんどんアップしていて、昔より遥かにクリーンだし、実に美しい。音楽を作るには本当に素晴らしい時代だと思うよ。僕は最新機材を揃えた小さなスタジオを所有していて、そこでまず、かなり正確なデモを制作する。ドラム・マシーンとシンセとベースを使い、メロディーも自分で歌って。そして、過去にもそうしてきたように、有能なミュージシャンたちの手を借りて曲を完成させるんだ。最新のテクノロジーを用意しないと最新の音は鳴らせないからね!」。
そんな生真面目で根っからのプロデューサー気質な彼に目下のインスピレーション源を訊ねると、これまた生真面目な回答が返ってくる。
「音楽作りはインスピレーションよりハードワークに支えられていると思う。スタジオにこもって機材をいじりながら、長い時間を費やすことに。もちろん、レストランで食事をしていてふとメロディーを思い付くこともあるが、それは非常に稀だ。歴史上もっとも偉大な作曲家と呼ぶべきベートーベンは、途方もなく長い時間をかけてたくさんのアイデアを試した末に作品を作り上げていたし、ヒット曲を生むのはインスピレーションじゃないんだよ」。