圧巻の音楽的才能と技巧で描かれるヴィヴィッドなハイドンと濃密なグルジアの秘曲

 今年7月に来日し、紀尾井シンフォニエッタブラームスの二重協奏曲、群馬交響楽団ハイドンの第一協奏曲を披露したマキシミリアン・ホルヌング。特にブラームスでは、共演のヴァイオリンのホーネックを食ってしまうような余裕の妙技を聴かせ、その音楽的能力の高さで圧倒した。バイエルン放送響の首席としての4年間のオーケストラ活動を経て、現在はソリストとして活躍を広げる彼は、今年29歳。アルバムの数は、2005年のドイツ音楽コンクール優勝記念のデビュー盤以降、既に11枚を数える。その殆どがなかなかに凝ったプログラミングというのも興味深い。

MAXIMILIAN HORNUNG ハイドン:チェロ協奏曲 第1番&第2番 アザラシヴィリ:チェロ協奏曲 Sony Classical(2015)

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 最新盤も例に漏れず、ハイドンの2つの協奏曲に、なんとグルジアの作曲家アザラシヴィリの協奏曲を組み合わせてきた。師エルダル・イサカーゼがこの国の出身ということを思い出させる選曲でもある。

 「14歳の時に初めて弾いて以来、毎年数回は必ず弾いています。世間に知られていない作品ですが、録音することで皆さんに聴いていただけるのは嬉しいです。とにかく素晴らしい音楽ですから。演奏時間が13分ほどということもあり、いつもハイドンと組み合わせて演奏しています。何か相性がよいのですよね」

 この協奏曲には何らかのテーマやストーリー性があるのだろうか?

 「いいえ。けれども、たくさんの異なった性格や感覚、表現が含まれています。思うに、グルジアのアトモスフェア、文化、人々のメンタリティなどが反映されているのではないかと…音楽によるグルジアのツアーガイドのようなものとも言えるでしょう」

 ハイドンの2曲について。

 「ハ長調の方は地に足がついているというか、とても真面目で現実的で、誠実な音楽だと思います。ニ長調はとてもエレガント。威厳もあるけどちょっぴり軽やか。夢見がちで、パラダイスを思い描いているよう。そういう個性の違いがありますね」

 使用しているカデンツァは?

 「ハ長調は古い写本からとっています。ニ長調も第2楽章は同様ですが、第1楽章はバイエルン放送響でチェロを弾いている友人のザムエル・ルツカーが書いてくれたものに自分で3割くらい手を加えています」

 確かに演奏は抜群。アザラシヴィリの濃密さもさることながら、ハイドンの爽快さは特筆ものだ。時代様式の差異もくっきりと弾き分けており、両者の響きのタイプをまったく違うものにしているのも素晴らしい。なお、使用楽器は2007年のARDコンクール直前からの愛器テクラー。彼のすべてのアルバムで聴かれるこの銘器の美音もたっぷりとご堪能いただきたい。

【参考動画】マキシミリアン・ホルヌングの2014年のコンサート映像