古い映画など、過去のメディアであるビデオテープに記録された音を拾い集め、エキゾでラウンジなサンプリング・ミュージックを紡ぐ……というその名の通りの独創的なスタイルでインディー界隈の衆目を浴びた男、VIDEOTAPEMUSIC。彼が初作から3年を経てセカンド・アルバム『世界各国の夜』を完成させた。前作の軽やかでユルい魅力はそのままに、よりヴァリエーション豊かな楽曲を取り揃えることで、〈ジャンルとしてのエキゾ〉に回収されない多様な風合いを獲得。タイトルを軸にした異国情緒溢れる映像的な世界観を、アルバムを通して緻密に構築している。ここで鳴っている音楽には、いつでも聴ける心地良さと何度でも聴ける奥行きがあるのだ。
「VIDEOTAPEMUSICはゲームみたいな感覚で始めたところがあるんですけど、自分がやっていること――古いビデオを使うことや〈エキゾの意味〉について改めて考え直したんですよね。いわゆる〈エキゾチカ〉はアメリカの人たちが架空の南国をイメージして作ったものですけど、そういうエキゾな感情って南国に限らずいろんなものに抱けると思うんです。戦前の歌謡曲だったり、映画に出てくるアメリカのティーンの日常だったり。そういう捉え方でこのアルバムは出来ています」。
トラックメイカー然とした従来の作風から飛躍してオーガニックな質感を強めている一方で、本作ではふくよかなグルーヴを全編に脈打たせており、ダンス・ミュージックとしての側面も色濃い仕上がりだ。とりわけ、表題曲に顕著なラテン・フレイヴァーが随所で立ち現れるのが印象深い。
「クラブでライヴをする機会が増えてきたんですけど、自分は〈クラブ・ミュージック〉を作ってきたわけではなくて。でも、お客さんが踊ってくれたら嬉しいし、踊らせたい。どういう音なら自分にできるだろうと考えた時に、ラテンが浮かび上がってきて。ある世代より上の人たちにとってはラテンってポピュラーなダンス・ミュージックなんですよね。そういう、いまのフロアでは鳴っていないダンス・ミュージックを拾い集めるという意識はありました」。
今回はceroの荒内佑にbeipana、MC Sirafu、Dorian、思い出野郎Aチームの面々など、多くのミュージシャンを招いているのも特色だろう。音楽性のシンクロが緩やかに感じられる顔ぶれゆえか、各人の個性がアンサンブルのなかにごく自然な形で溶け合っている。
「参加してもらったのは、一緒にライヴしたり遊んだりしている人たちばかりですね。日常でも共有している場面が多いし、みんな、僕がどういうものを求めているかをわかってくれる。作品に表れているかは別として、影響も受けていると思います」。
総じてメロディアスに仕立てられているが、やはりヴォーカルをフィーチャーした2曲がキャッチーに響く。LUVRAWのトークボックスがセクシーに泳ぐ“東京狼少女 -Tokyo Luv Story-”はDUB MASTER Xとピアニカ前田によるラヴァーズ・クラシックのカヴァー。彼らやフィッシュマンズなど、国内で独自のレゲエ表現を開拓してきた先達にオマージュを捧げるようなサウンドが楽しい。
「自分がどこに影響を受けているということをここで公言しておこうかと。先輩に筋を通すというか(笑)」。
サンプリングされた過去の音声には未知の世界へ聴き手を誘う魅惑(と恐怖)があり、それはエキゾ感覚を突き詰めたトリッピーなサウンドと分かちがたく結び付いている。〈別世界への扉〉としての音楽の魅力を掘り下げた今作は、〈VIDEOTAPEMUSIC〉というコンセプトの底知れぬポテンシャルも明示している。
「サンプリングは、その音のもともとの意味をなくしていく使い方もありますけど、僕は元の意味も含めてサンプリングするいう考え方なんです。だから曲のイメージと合致したセリフを探して……凄い大変ですけど(笑)。そこは自分が決めたルールのなかで楽しむつもりで、時間がかかっても気負わずやればいいかなと思ってます」。
VIDEOTAPEMUSIC
古今東西、さまざまなビデオテープをサンプリングして映像と音楽を制作するクリエイター。2009年の『ニュービデオ』、2010年の『Summer of Death』という2枚の自主制作アルバムを経て、2012年に初の全国流通盤となるフル作『7泊8日』を発表。その後は同年に“1泊2日”、2013年 に“Slumber Party Girl's Diary”、2014年にはHi, how are you?とのスプリット盤となる『熱海へ行くつもりじゃなかった』と3枚の7インチを上梓。他にもceroや小島麻由美、Gotch、KONCOS、やけのはら、Dorian、禁断の多数決、Alfred Beach Sandal、NRQらのMVなど数多くの映像作品を手掛けるなか、ニュー・アルバム『世界各国の夜』(KAKUBARHYTHM)をリリー ス。