INTERVIEW

古謝美佐子、活動の軸置く〈うないぐみ〉と坂本龍一のコラボ・シングル“弥勒世果報-undercooled”を語る

古謝美佐子、活動の軸置く〈うないぐみ〉と坂本龍一のコラボ・シングル“弥勒世果報-undercooled”を語る

歌が手繰る弥勒力の世

うないぐみ,坂本龍一 弥勒世果報-undercooled commmons(2015)

 取材日は9月19日。その日未明に安全保障関連法案が可決成立したのはいまだ記憶にあたらしい。取材場所は国会からもそう遠くない。私は昨夜走った同じ道を今日は古謝さんとプロデューサーの佐原さんの話を訊きに自転車を走らせる。古謝美佐子宮里奈美子比屋根幸乃――初代ネーネーズの3人に島袋美恵子を加えた〈うないぐみ〉がそのとき、リリースを目前に控えていた《弥勒世果報》は坂本龍一の2004年作『CHASM』収録の《Undercooled》のカヴァー。原曲の背景にはイラク戦争があり、うないぐみ版が世に出るのは2015年のダンゴになった政治状況下。質問がそこに終始しそうな勢いで私はペダルを踏みこんだ。その足に自然と力がはいる。ところが、久方ぶりにお会いしたふたりは柔和な表情でこの曲のうまれたいきさつを語るので、いからせていた私の肩も自然に下がったのだった。

 「『CHASM』の1曲目《Undercooled》を聴いたときに、この曲は同じメロディのくりかえしで、もしかしたらこのひとたちが歌ったら合うなと直感したの。それから坂本さんにお会いしたときに、この曲は沖縄の音楽に合いそうなのでウチナー口で歌詞をつくってカヴァーしてもいいですかと訊いたのが2004年あたり」

 佐原一哉によれば、構想は10年以上前にあったが、万障繰り合わせているうちに時間が経った。そのあいだ、古謝美佐子は『廻る命』(2008年)を発表し、うないぐみに活動の軸足を移した。『うない島』は今年1月に出た彼女たちの初作で、《弥勒世果報》は本来なら本作に収録する予定だったが、坂本龍一の病でそれを逸した。結果だけ見れば難産だったわけだが、結果に耳を傾ければ、それを逆手にとったひとのかかわりと時間の醸すものがあるのがわかる。うないぐみの歌唱はアルバムを一枚をものしたあとの一体感をもち、シンプルな三線弾き語りスタイルに坂本龍一のピアノ、シンセなどが加わることで曲は色彩を帯びる。曲間のUAと子どもたちのつぶやきは牧歌的な風景を描出し、音をくるむジャケットにはCoccoが作品を提供した、そのなりたちそのものが作品であり、それはときの流れにたやすく摩耗しない耐性を備えている。

 《Undercooled》には2000年代初頭をとりまいたアグレッションを押し返す力線があったが、《弥勒世果報》は2010年代なかばの緊張をほぐすしなやかさをもっている。歌詞はウチナーグチだが意味がとれないことはない。「歌詞ほとんど六音節です。《命どぅ宝》も《海の美らさ》も、そもそも《弥勒世果報》が六音節です。八八八六の最後の一節はとても大事なんです」つまり琉歌の構造になぞらえ、結句にあたる六音節を印象的にもちいた「ウィニングショットの連発です」といって佐原一哉は笑う。『廻る命』で《アメイジング・グレイス》を沖縄方言に翻訳したのと同じ方法ともいえるが、同時にこれは古謝美佐子という稀有な歌い手を沖縄の外、民謡の外に誘う呼び水にもなる。

 もっとも、古謝美佐子と坂本龍一の交流自体それを目してもいた。たとえば、1999年の坂本龍一のオペラ『LIFE』。20世紀を総括する野心的なこの音楽劇で、古謝はサリフ・ケイタ、モンゴルのシャリーン・チメドツェイェ、スウェーデンのスザンヌ・ローゼンバーグスらと声による地図を描く役を担った。さらにその起点は『ビューティ』や『ネオ・ジオ』といった坂本の80年代の諸作に求めることができる。

 「30代後半から40代のころ、あるひとに、美佐子、おまえの歌は50からだよ、といわれたのよ。でも50代にいい歌を歌うためには積み重ねないとならない。身体の内側、臓器も健康でないといい歌を吐き出すことはできない。それまではただ好きでやっていたんだけど、身体と歌は並行しないといけないと気づいたんです。それでジムに通いはじめた。そのきっかけが坂本さんにオペラの話をもらったからなんです」

 さらに16年という短くない時間が過ぎた。古謝美佐子の歌はいよいよ滋味を増し、うないぐみでは後進の手本も兼ねる。歌うための身体は休むことを知らないが、ひとたび声を発すれば、その声は幾多の声と重なり合い、音楽となる場所にマージナルな一線を劃すだろう。

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