「恋する風景」を眺めるように…

 ソロのチェリストとして30年以上のキャリアを誇り、ジャンルを越えて様々なアーティストと共演を重ねつつ、劇伴の作曲家としても大活躍。中でも1987年に放送が始まり、今年4月には通算1000回を迎えるテレビ朝日系の長寿番組『世界の車窓から』のテーマ曲は溝口肇の代表作としてあまりに有名だろう。

 「車窓からの風景は毎回変わるけれど、演出や楽曲の使い方はスタート当初から同じ。良い意味で大いなるマンネリが長く愛される秘密かもしれません(笑)」

溝口肇 ラヴ・サウンズ キング(2016)

 一方、待望のニュー・アルバム『ラヴ・サウンズ』で冒頭を飾るのはBSフジ放送『ヨーロッパ空中散歩』の新テーマ曲。歴史ある欧州の街並みや自然の姿を空撮で紹介する同人気番組が今春より4Kの超高画質にグレードアップするのに合わせて書き下ろされた。

 「実はこの新テーマ曲《ワールド・アンビエント・ラヴ》がアルバム全体のコンセプトにも繋がった。神の視点とまでは言わないけれど、様々な愛のかたちや場面をどこか俯瞰で捉えて、少し離れた所から見守っているような、そういう雰囲気の曲が集まりました」

 昭和歌謡からソウル、AOR、ジャズ・スタンダードと名ラヴ・ソングのカヴァーがずらり。ミニー・リパートンの《ラヴィン・ユー》のラヴァーズ・ロック風からギターとチェロだけで演奏されるスティーヴィー・ワンダーの《可愛いアイシャ》などアレンジも多彩だ。

 「《黄昏のビギン》のような曲は元々馴染みのないジャンルだったのですが、東日本大震災のチャリティなどで会場の高齢者からのリクエストに応えて演奏するうちに、やはり永六輔&中村八大コンビの作品だけあって名曲だなってあらためて実感させられましたね。今回のアレンジはbeguineのリズムではないけれど…」

 ピアソラ作曲の《オブリヴィオン》では福田まりとのピアノ・デュオによる重厚な演奏が聴きどころ。

 「母がタンゴ好きで、殆どピアソラの追っかけのようなことをして何度もアルゼンチンに行ったり、邦人バンドのツアーをサポートしたりしていて、その影響で自分もピアソラの来日公演を聴いてます。そもそも私が最初に就いたピアノの先生って日本のバンドネオン奏者の草分けでもある池田光夫さんだったのです」

 書き下ろしオリジナル曲がもうふたつ。《ランデヴー・エチュード》では軽やかな打ち込みが心地よいビートを刻み《センチメンタル・ウェイヴ》は夏の終わりの海辺が似合うような甘い旋律に魅せられる。

 「基本的にメロディ重視なんです…演奏する時も心の中で歌っているし。夜中にリッラクスしたい時とか仕事や家事のBGMとしても聴けるけど、ちょっぴり心にひっかかるような曲をこれからも書いていきたい」

 


LIVE INFO

春のコンサート「Ambient Love」
○5/28(土)17:00開演
銀座ヤマハホール(東京)
with 宮本貴奈(p)
www.mizoguchi.strikingly.com/