梅雨の時分ながら、気持ち良く晴れ渡った6月も終わりのある日。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。3年生コンビと新入生がロック談義を交わしているようですよ。

 

【今月のレポート盤】

MATT BIANCO Whose Side Are You On WEA/Cherry Red(1984)

雑色理佳「にわかにファンカラティーナが盛り上がってきた!」

逸見朝彦「(スマホを見つつ)ファン、カラ、ティーナ……。そ、そうだね。少し前にモダン・ロマンスヘアカット100もリイシューされたし」

モダン・ロマンスの81年作『Adventures In Clubland』収録曲“Nothing Ever Goes The Way You Plan”
 

逗子 優「そして、マット・ビアンコの84年作『Whose Side Are You On』が2枚組で再登場しましたもんね~」

逸見「ファンカラティーナっていうのはファンクとラテンを掛け合わせた造語で、一時期はカルチャー・クラブワム!もそう呼ばれていたよね」

逗子「流石は会長さん、知識が豊富ですね~」

雑色「いや、逸見が優れているのは、検索スキルだけだから、にゃはは」

逸見「それほどでもないって。じゃあ、特別に会長の僕が2人にお茶を煎れちゃうよ!」

雑色「褒めてねーよ!」

逸見「今回の拡張版にはリミックスやデモ音源などが23曲も追加収録されていて凄いよね。ヴォリュームはオリジナルの3倍以上!」

逗子「とても貴重ですよね~。バーシア在籍時のレア・トラックがこんなに残っていたなんて~」

逸見「え、バーシア!?」

雑色「もともとはマット・ビアンコの一員だよ。このデビュー作後に脱退してからソロで大成功す……」

逸見「そうだった、そうだった。で、アルバムの邦題は〈探偵物語〉って付けられたらしいけど、言われてみれば冒頭曲なんて昔のスパイ映画のサントラみたいだね」

雑色「他のファンカラティーナ勢と比べても、図抜けてスタイリッシュというか、洒脱度の高いサウンドだね」

逗子「ところで、ファンカラティーナって、つまりはソウルやサルサ、ジャズの要素なんかも採り入れたダンサブルなポップスですよね~!? 音楽性だけで見ればイマドキのインディー・ポップと通じる部分も結構ありますよね~」

逸見「ユウ君、わかってるねえ。そう、だからここ最近のリイシュー・ラッシュは結構タイムリーだと思うんだよ」

雑色「何を偉そうに! まあ、確かにサウンドは近い部分もあるけどさ、でも私は声を大にして言いたい。80sのファンカラティーナたちは見た目も断然オシャレであったと!」

逗子「確かに、タキシードやドレス姿でビシッとキメている印象がありますね~。もしくは、麻素材のジャケットを羽織ったマリン・ルックだったり~」

雑色「それに比べて最近の〈シティー・ポップ〉と形容されているような日本のバンドはどうよ!? 大抵が近所のコンビニに行くような普段着で、全然シティーじゃないっつうの。オシャレな音を志すなら、格好にも気を使えよな」

逗子「日本だけに限らず、フォスター・ザ・ピープル以降の海外組にもそんな傾向はありますよね~。その普段着な感じがイマっぽくてオシャレだと思うんですけどね~」

フォスター・ザ・ピープルの2011年作『Torches』収録曲“Pumped Up Kicks"
 

逸見「てか、単純に80年代の連中が年齢的にもっと上だったからじゃないの?」

雑色「ハァ~!? 何言ってんの? マット・ビアンコのマーク・ライリーは当時まだ24歳だし、ニック・ヘイワードなんてヘアカット100でデビューした頃は21歳だよ!」

逸見「本当に!? 僕らと同じ歳だったとは……」

逗子「最近は社会全体がアンチ・エイジングな風潮にありますが、昔は背伸びしてキザに大人ぶることのほうがカッコ良かったというか。どちらが正しいとかはないにせよ、アーティストにとって〈粋〉や〈気取り〉って大事かもしれませんね~」

雑色「若者よ、キザになれ!」

 相変わらず雑色さんの毒舌が火を噴いていますが、言っていることには一理あるような気もしますね。でも、そんな彼女自身はオシャレと無縁のように見えるのが不思議で……。 【つづく】