落ち葉が舞い散るある日の放課後。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。
【今月のレポート盤】

穴守朔太郎「ハナはポール・マッカートニーの来日公演に行って以来、ずっと呆けたツラしてらいな」
三崎ハナ「だって最高だったんですもん! 先輩も行くべきでしたよ~!」
穴守「オイラはビートルズの〈White Album〉の50周年記念版で貯金を使い果たしたから無理だい」
三崎「もうすぐ社会人だっていうのに……。たまにはハナに学食で奢るくらいの男になってくださいよ!」
野比甚八「ちょいと皆さん、ポールもビートルズも素晴らしいのは承知していやすが、いま聴くべきはバッドフィンガーじゃねえですかね?」
三崎「ビートルズの弟分的な存在だったことは知っているけど、なぜいま?」
野比「ワーナー移籍第2弾にして、オリジナル・メンバーでのラスト作品となった74年の『Wish You Were Here』が、最新リマスターかつボートラを9曲も追加してリイシューされたんすよ! しかもプロデュースは〈White Album〉にも関わっているクリス・トーマス! いまこそ聴くべし!」
穴守「けどよ、彼らの全盛期って言ったらどう考えてもアップル時代だんべえ」
野比「セールス的にはそうなんすけど、熱心なファンの間ではこれを最高傑作に推す人も少なくないんですぜ!」
三崎「え~。だったら、もっと知られていてもいいよね? ハナはいままでジャケすら見たことなかったよ」
野比「それには深い理由があるんすよ。この頃に悪徳マネージャーと契約しちまったことで、ろくなプロモーションも行われず、しかも多額の経費まで横領される始末。加えてワーナーは契約違反を理由に、本作と、さらに同じ年に出た前作『Badfinger』をすべて回収したんでさあ」
穴守「金銭問題やメンバー間の不和が原因で解散したっていうのは知っていたけんどよ、そんな酷い内幕があったんかい……」
野比「そして気を病んだリーダー格のピート・ハムは、マネージャーへの恨みを遺言に記して自殺しちまうんすよ」
三崎「えええ! あまりにも悲惨なエピソードにハナは泣きそうだよ! 野比君、よくわかったからすぐに聴いてみよう!」
穴守「(アルバムを聴きながら)う~む……こりゃ確かに力作だいな。アップル時代ほどビートルズっぽさがない代わりに、“Just A Chance”や“Dennis”あたりはポールの、“Got To Get Out Of Here”はジョン・レノンのソロを彷彿とさせるのが興味深いんさ。それにアヴェレージ・ホワイト・バンドのホーン隊が参加しているのも意外だいな」
三崎「明るいパワー・ポップの“Know One Knows”が良いね! 日本人女性の語りが入ってるのもおもしろい!」
野比「その声の主はサディスティック・ミカ・バンドの加藤ミカなんすよ。よく見ると彼女はジャケにも写っていやす」
穴守「ポール直系のドリーミーなバラード“Love Time”もたまんねえな」
野比「超名曲っすよね! 世間的には無名のナンバーっすけど、あっし的には〈ポール風ソング〉史上屈指の出来だと思うんすよ」
穴守「これだけ良い曲が揃っているんだからよ、諸々のトラブルさえなきゃ〈バッドフィンガーの代表作〉って評価になっていたかもしんねえべなあ。〈全盛期はアップル時代〉っていう前言は撤回するんべえ」
三崎「そう言えばニルソンやマライア・キャリーのヴァージョンで有名な“Without You”も、オリジナルは彼らなんですよね。それすらさほど認知されていないんだから、つくづく悲運なバンドだな~」
野比「だからこそ、この機会にせめてロッ研だけでもバッドフィンガーとこの『Wish You Were Here』を大いに盛り上げようって寸法じゃねえですか!」
三崎「よし! 部長権限でみんなに一枚ずつ強制配布しよう! お金は部費から勝手に出すよ!」
穴守「それじゃ悪徳マネージャーと変わらねえべ!」
やたらと熱くなっている3人が微笑ましいですが、確かに良い作品ですね。再評価されることを遠くから願っています。 【つづく】
バッドフィンガーの『Wish You Were Here:Expanded Edition』と並べて聴きたい作品たち

バッドフィンガーの前身バンドに惚れ込んだポールが、そのまま彼らをアップルへ引き入れたのは有名な話。ポールの作詞/作曲/プロデュースによる“Come And Get It”がグループの存在を一躍メジャーにしたことを考えると、まさに大恩人だいな。バンドが存続していたら一緒に来日していたかもなあ。 *穴守

リヴァプールの中堅選手だいな。ポールが設立した音楽学校の卒業生によるバンドだから、バッドフィンガーがビートルズの弟分だとすると、彼らは孫弟子ってところだんべ。本作にもピート・ハムがシンセを導入して作ったような曲があるし、ビートルズからの流れを感じらいな。 *穴守

ウィーザーやビーチ・ボーイズをよく引き合いに出されているブライトンの新人バンド。でも、実際に聴いてみたらハナ的にはバッドフィンガーに近いと思っちゃったんだよね。バッドフィンガーがどんなに悲しい末路を辿ったからといって、〈元祖パワー・ポップ〉だって事実は変えられない! *三崎
クリス・トーマスは本作と『Wish You Were Here』を同時進行でプロデュースしていたんすけど、その縁でロンドンに行ったミカはバッドフィンガーの面々と意気投合して毎日のように遊んでいたとか。クリスとミカが不倫関係に陥ったことでミカ・バンド解散という苦いオチもつきやすが……。 *野比

83年にトム・エヴァンスも自殺し、2005年にはマイク・ギビンズも他界。創設メンバーは“Love Time”の作者であるジョーイ・モーランドだけになっちまったんですが、そんな彼の目下の最新ソロ作はルーツ回帰のブルージーな内容で、幾多の悲哀を通過してきた男ならではの燻し銀な一枚ですぜ。 *野比
部室に置かれたキャンパス・ノートを覗き見しちゃいましょう!

たまにはハナも最近ゲットしたリイシュー作品を報告しようかな! バッドフィンガーが素敵なのはわかったけど、もちろん兄貴分のビートルズも欠かせません。68年に発表された通称〈White Album〉の50周年記念盤『The Beatles: Super Deluxe Edition』(Apple/ユニバーサル)は、ジャイルズ・マーティンによるいままで聴いたことのない鮮烈なサウンドが衝撃的な最新ステレオ・ミックスに、アルバムの原点となったいわゆる〈イーシャー・デモ〉、そして銀皿3枚分もの未発表セッション、さらに高音質Blu-ray音源まで収録した7枚組の超特盛ボックス! 三崎家の家宝に決定です!!

THE JIMI HENDRIX EXPERIENCE Electric Ladyland: 50th Anniversary Deluxe Edition Legacy/ソニー(2018)
続いての、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスによる68年作を拡張した『Electric Ladyland: 50th Anniversary Deluxe Edition』(Legacy/ソニー)も驚愕の代物! Disc-1には最新リマスタリング音源を、Disc-2にはデモやアウトテイクを、Disc-3にはリリース直前にあたる68年9月のハリウッド・ボウル公演を収めた未発表のライヴ音源を、そしてBlu-rayにはドキュメンタリー映像や高音質音源などを詰め込んだ満腹の内容なんです! これは嫁入り道具として持参しなきゃ!!

BOB DYLAN More Blood, More Tracks The Bootleg Series Vol. 14 Legacy/ソニー(2018)
お次はボブ・ディランの〈ブートレッグ・シリーズ〉の最新版『More Blood, More Tracks The Bootleg Series Vol. 14』(Legacy/ソニー)。75年の名盤『Blood On The Tracks』は発表直前に本人の意向で収録曲が差し替えられたって話、〈ロッ研〉のみんななら知ってるよね? で、何と今作はもともと予定していた内容に近い録音物をまとめているんだよ! 1曲を除いたすべてが未発表テイクっていうのも凄い!

最後はフリート・フォクシーズの初期音源集『First Collection: 2006-2009』(Sub Pop/BIG NOTHING)。まだまだ最近のバンドだと思っていたけど、もうアルバム・デビュー10周年なんだって。その初作『Fleet Foxes』に加えて、入手困難な2枚のEP音源、さらにはシングルB面やレア曲を多数収録した、4枚組仕様のこれまた豪華盤に! いまなお続くインディー・アメリカーナ人気の出発点をこの機会に再確認するべし! *三崎ハナ
