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共同作業だからこそリスペクトが生まれてくる
ブラジルのファヴェーラで生まれたオーケストラ

 オーケストラのオーディションに、緊張のあまり、失敗してしまったヴァイオリニスト、ラエルチ。部屋で一人で練習しているだけでは、という理由もあろうか、ブラジル、ファヴェーラ地区のオーケストラを指導に行くことになる。だが……集中力など皆無、罵りあいが絶えない。何とか弾かせても曲なんていえない。じつは楽譜も読めないのだった。とはいえ、光る子がいる。音楽につよい関心を持つ子がいる。そんな子も、家庭環境は劣悪であり、ドラッグなどと背中合わせの生活をしている。

 映画のなかでは、子どもたちが奏でるクラシック曲とクラブでのヒップホップが共存する。

 「クラシックを高尚なものとしては描かない、ほかの音楽とおなじレヴェルで描きたかったんだ。そして実際にブラジル最高のヒップホップ・ミュージシャンを集めている。ドラッグ・ディーラー役で出演しているクリオーロもそうだ。また、神話的存在であるサボタージのアカペラの曲をエンドロールでつかっている。これはアレンジしてオーケストラと共演というかたちをとっているのだが、あとでサボタージの息子がこんなことを言ってくれたんだ。父は自分の曲をオーケストラで奏でてもらうのが夢だった、と」

 はじめに置かれているのは、ラエルチがオーケストラのオーディションで弾けなくなるシーン。

 「これは僕の物語でもあるんだ。この映画の脚本を書いているとき、自分に対する自信を失ってしまって、パニックになってしまった……。これしかできないとおもっているのに、できなくなってしまうという恐怖心。そこから何とか復帰するために、じゃあ、体験を写したらどうだろう、恐怖心をキャラクターに投影したらどうだろう、と考えたんだ。そして、ラエルチの存在が子どもたちを、オーケストラをどう変えたかというより、ラエルチ自身が変わることに興味が移ったんだな。子どもたちをとおして自信を取り戻すんだ」

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 ラエルチがオーケストラの一員としてステージで弾いているのを、子どもたちが客席からみているシーンで終わるでしょう? そこに、指導者でもあった人物が、自分たちとおなじオーケストラの一部でもある、自分たちとおなじなんだ、というのがみえてくる。

 「ラエルチははじめべつの俳優がやるはずだった。だけど、ラザロ・ハーモスは、これは自分の物語だと、自分がこの役をやりたいと言ったんだよ。そう、音楽や文化を変える。子どもたちをみていると、それがわかる。音楽をとおして自分に自信を持つんだ。オーケストラで演奏するというのは、競いあいではないよね。隣の友だちより大きな音をだしていいわけではない。信頼、サポートが大切なんだ。それがオーケストラの魅力なんだ。共同作業だからこそ友情があり鍛錬・自制心、リスペクトが生まれてくるのがオーケストラなんだ」

 


MOVIE INFORMATION
映画「ストリート・オーケストラ」
監督・脚本:セルジオ・マシャード 
音楽:アレシャンドレ・ゲーハ/フェリペ・ヂ・ソウザ
出演:ラザロ・ハーモス/カイケ・ジェズース/サンドラ・コルベローニ ほか
特別出演:サンパウロ交響楽団/エリオポリス交響楽団 
配給:GAGA
(2015年 ブラジル 103分)
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