映像と音の素晴らしい出会いとともに
映画音楽専門のこだわりレーベル
ミランレコーズ
ミラン・レコーズといえば1978年の創業以来、活躍が久しい映画音楽専門のこだわりレーベル。最近では、坂本龍一が音楽を担当した映画『レヴェナント:蘇えりし者』のサントラ盤で話題を呼んだばかりだ。
「坂本さんの音楽はとても美しく、しかも実験的で、映画に成功をもたらしているよね。北米だけで1万枚、ヨーロッパでは6~7千枚売れたんだ。インストゥルメンタル音楽としてはとてもいい数字になっていると思う」
微笑みをたたえながら語るジャン=クリストフ・シャンボルドンは、フランス出身の今年40歳。ミランの創設者にしてCEOのエマニュエル・シャンボルドンの息子であり、同レーベルの現場を取り仕切るCOO(Chief Operating Officer)だ。
「最初から映画音楽専門の会社だったわけではないんだ。創業から数年ほどはいろんなコンピレーション盤を作ったりしていたんだけど、たまたまライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の映画『リリー・マルレーン』(音楽担当:ペーア・ラベン)のアルバムを出したら、それが父には楽しい経験だったみたいでね。そこから徐々にサントラ盤をリリースするようになっていったんだ」
最初の大きな成功はジャン=ジャック・ベネックス監督の映画『ディーバ』(1981/音楽担当:ウラジミール・コスマ)だった。
「全世界で200万枚を売ったんだ。いくらプロモーションに励んでも、レコーディング・アーティストでそれだけ売るのは難しい。国際的な市場を開拓できたし、まさに会社の歴史を変えたリリースだった。そこで初めてサントラ盤がビジネスになるとわかって、映画音楽専門の方向に向かうことになったんだ。僕はその頃、6~7歳だったかな。よく覚えているのは、あの映画のポスターがクールだったこと(笑)。その後、父が“ミランの歴史上、最も重要なリリースだった”と何度となく話していたことも忘れられないね」
ちなみに、会社名の「ミラン」には特別な意味はないのだという。
「イタリアの都市みたいな社名だけど、全く関係ない。たったふたつの音節しかないだろう? これなら世界中、誰もが同じように発音できる。覚えやすいこと、言いやすいこと。父にとってはそれが大事で、そこにはロマンティックなストーリーはないんだ(笑)」
ビジネス上の最大のチャレンジは「映画と音楽が共に素晴らしいプロジェクトを見つけてくること」だという。
「たとえば『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990)がそうだね。映画も大ヒットしたし、音楽担当がモーリス・ジャールで、挿入歌がライチャス・ブラザーズの《アンチェインド・メロディー》だった。でも、当初はそういう認識が業界にはなくて、父と友人だったジャールが“エマニュエル、今ちょうど小さな映画を終えたところなんだが、誰もサントラ盤を出すことに興味を持たない”って電話をかけてきたんだ。いざ父がアルバムを出したら、知っての通り、映画は社会現象にまでなって、アルバムも1200万枚売れた。サントラ盤のいいところは、映画が成功すると、それ自体がプロモーションになるから、そんなに働かなくていいところ(笑)。問題は、いくら美しいアルバムを出しても、映画を見てもらえないと誰も買ってくれないところだね」
とはいえ、全く手をこまねいているだけではない。『レヴェナント』のリリースに当たっては、3ヶ月ほど熱心にプレス・キャンペーンを行い、『ローリング・ストーン』をはじめとする有名誌に記事の掲載を果たした。
「僕らの姿勢にはスタジオもそうだけど、坂本さんも喜んでくれたと思う。そもそも『レヴェナント』のリリースは、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のサントラ盤での僕らの仕事を監督のアレハンドロ・イニャリトゥが気に入ってくれたことに始まっていて、何においても彼が「俺はこうしたいんだ!」ということに誰もNOとは言えないんだけどね(笑)。それでも、坂本さんとのアルバム作りはパッケージングからマスタリング、プレゼンテーションに至るまで全てがファンタスティックだった。アルバムが売れたことはとても嬉しいけど、僕にとっては坂本さんと仕事ができることがエキサイティングだったし、彼に満足してもらうことが何よりも大事なことだったんだ」
坂本作品では『戦場のメリークリスマス』が大好きで、坂本のパリ公演にも駆けつけた過去もあるとか。この秋には『戦場のメリークリスマス』のアナログ盤をリリースするほか、『母と暮せば』の北米発売も予定している。後者に関しては、映画そのものの北米公開が果たされていないにもかかわらず、だ。映画音楽の作曲者をアーティストとして尊重し、意思の疎通を堅実に図ろうとするあたりにレーベル成功の秘訣が垣間見える。
「作曲家たちとのパーソナルなリレーションシップには留意してきたつもりだよ。僕は映画のプロデューサー以上に彼らの意見を尊重している。彼らは映画製作で大変な思いをしているのだから、アルバム制作では楽しいものになるようにしてほしいんだ。そして、次の作品でもミランでアルバムをリリースしたいと思ってくれれば、なお嬉しい」
アメリカ映画にこだわらず、全世界の才能を紹介しようとする気概が、このレーベル最大の長所だとしていい。日本からは久石譲、天野正道、鷺巣詩郎、高木正勝といった面々の作品もリリースされている。
「市川崑監督の『野火』の音楽(芥川也寸志)も大好きだよ。競争が大変なビジネスだけど、成功したリリースのほとんどが予測できないものだったし、そういうサプライズこそがこの仕事のエキサイティングな部分でもあるんだ。現在はダウンロード(デジタル販売)が売上の6割を占めている。でも、CDは安定してきているし、アナログ盤も徐々に売れてきている。パッケージ・ソフトウェアの販売をやめるつもりはないよ。アメリカでタワーレコードが閉店してしまったときは本当にクレイジーだと思ったけどね(笑)!」
Jean-Christophe Chamboredon(ジャン=クリストフ・シャンボルドン)
1978年に設立されたミラン・エンターテイメントの創設者兼最高経営責任者(CEO)の息子として、1976年に生まれる。南カリフォルニア大学卒業。現在、フィルムスコアおよびサウンドトラックアルバムに特化したレコード会社、ミランレコーズのCOO (最高執行責任者)。ミランレコーズは、2009年から『シティー・オブ・ゴッド』『マルホランド・ドライブ』 『パンズ・ラビリンズ』などのサウンド・トラックをリリースしている。