トランペットの若き巨匠が描く“テールズ(物語)”と“レゾナンツ(反響)”

 輝かしい音色、精密で力強い技巧、そしてバロックから現代音楽、ジャズにまで至る広範なレパートリー。これらの要素をすべて備えたイエルーン・ベルワルツが現代最高のトランペット奏者の一人であることは、管楽器を愛する誰もが認めるところだろう。1975年ベルギー生まれの彼は、1999~2004年まで北ドイツ放送響の首席奏者を務め、現在は教育者としても活躍中だ。そんな彼が、この度、秀逸な新譜『トランペット・テールズ』を発表した。

JEROEN BERWAERTS Trumpet Tales 日本アコースティックレコーズ(2016)

 「私は長年、現代音楽に力を入れてきましたので、今回は細川俊夫さん、武満徹さん、リゲティといった、多様で変化に富んだ作品を中心に選曲しました。中でも思い入れが深いのが、細川さんの協奏曲《霧の中で》。私は2014年に、ヘルマン・ヘッセの同名詩から着想を得たこの作品を初演しましたが、細川さんは今回の録音用に自らトランペット&ピアノ編曲を作ってくださったんです。詩の中で語られる森をピアノが、人の思考をトランペットが表現する過程では、両楽器に多くの技巧的な挑戦が求められます。でも、それを一つひとつ乗り越えた結果、新たな室内楽の大作が生まれることになりました」

 この作品と対のような形をなすのが、武満徹《径》だ。

 「日本庭園をモチーフにした晩年の傑作を、偶然にも没後20年に発表できて幸せでした。また、録音に際し、この作品の初演者ホーカン・ハーデンベルガーが多くのアドバイスを与えてくれたことにも感謝しています」

 他にも、エネスコ《伝説》、ガーシュウィン《ラプソディ・イン・ブルー》、ロジャース《マイ・ファニー・ヴァレンタイン》など、聴きどころが満載の当盤。そうした中で重要な役割を果たしているのが、アルバムの冒頭、中央、最後を飾る、テオ・シャルリエの《36の超絶技巧練習曲》だ。

 「甘美な旋律と高度な技巧がみごとに調和した曲集で、私も公演で頻繁に演奏してきました。今回は冒頭に第2番を、中央に第13番を、最後に第6番を配置。ムソルグスキー《展覧会の絵》を巧みに繋ぐ〈プロムナード〉のように楽しんでいただければ幸いです」

 今年12月には独ハンブルクを中心に活躍するアンサンブル・レゾナンツの初来日公演のソリストとして再来日するベルワルツ。若い弦楽奏者を中心とした彼らは、伝統と現代音楽の溝を埋めるべく、ライブハウス感覚の革新的な活動を長年展開している。今回の共演では、細川《旅Ⅶ》や、J.S.バッハ《ブランデンブルク協奏曲第2番》などを演奏予定。瑞々しい感動にあふれた“レゾナンツ(反響)”を期待しよう!

2014年のパフォーマンス映像
 

LIVE INFO

アンサンブル・レゾナンツ初来日 with イエルーン・ベルワルツ

○12/15(木)18:30開場/19:00開演
会場:東京文化会館小ホール
出演:アンサンブル・レゾナンツ イエルーン・ベルワルツ(tp)/瀬尾和紀(fl)

○12/16(金)18:30開場/19:00開演
会場:愛知県芸術劇場コンサートホール
出演:アンサンブル・レゾナンツ イエルーン・ベルワルツ(tp)/山岡重治(rec)/三宮正満(ob)
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