アイ・キャント・ブリーズ

 1962年生まれの53歳にして、現役でも指折りのトランぺッター、テレンス・ブランチャード。同じくニューオーリンズ生まれで幼馴染みのウィントン・マルサリスの後を追いジャズの世界に飛び込み、かれこれ30年以上もシーンの中心で活躍を続けている。スパイク・リーからジョージ・ルーカスまで数多く手がけてきた映画音楽家としてのキャリアに加え、現在のシーンを支える多くの若手を育て上げてきたことも彼の評価を年々高めてきた。ロバート・グラスパー(p)、ケンドリック・スコット(ds)、デレック・ホッジ(b)、エリック・ハーランド(ds)ら蒼々たるメンバーが彼のもとから巣立って行った。

TERENCE BLANCHARD Breathless Blue Note(2015)

 そんな彼が昨年から始動させたエレクトリック仕様の新ユニット、Eコレクティヴは、現在の彼の右腕とも言えるファビアン・アルマザン(p)を中心に、チャールズ・アルトゥラ(g)、オスカー・シートン(ds)らとの強力ユニットとなっている。マルーン5の“第6のメンバー”としても知られるR&BシンガーのPJモートンやヒップホップ文化とも関係の根深い社会活動家コーネル・ウェストらもゲストとして華を添える。

 ディアンジェロも、ケンドリック・ラマーも、ロバート・グラスパーも、近作のリリースの根底には、米国での人種問題があり、テレンスの今作も、2014年7月の白人警官によるエリック・ガーナー窒息死事件に端を発したコンセプト・アルバムとなっている。(警官に羽交い絞めにされ死亡した男性が、「I Can't Breath(息ができない)」と繰り返す逮捕時の動画がネット上で拡散され、後日多くのプロスポーツ選手らが「I Can't Breath」とプリントされたTシャツを着用し抗議を表明した。)

 ひとつの事件、たった三つの言葉をきっかけに、悲しみ、動揺し、怒り、苦しみ、立ち上がり、明日に向けて前進しようとする…アフロアメリカンとしての生き様のサウンドトラックともいえるような音像は、コンテンポラリーでありながら、ブルーズに満ちていて、とてつもなくファンキーだ。