THE SECRET OF ELEGANCE
耳で聴いたピープル・トゥリー
冨田ラボをめぐる音楽の果実は、ここに一本のトゥリーを生んだ

大出世作であるMISIA“Everything”や中島美嘉“STARS”などで聴けるエレガントで壮大なストリングス・アレンジは、冨田恵一のひとつの看板。そのイディオムは、すぎやまこういち、村井邦彦といった作/編曲家が名を連ね、日本版〈サージェント・ペパーズ〉と呼ばれる本作が切り拓いた道筋に存在している。 *久保田
例えばレゲエにチャレンジした本作や大貫妙子の70年代作品で披露したフュージョン・サウンドをベースとしつつ、必ずポップなところへと落とし込んでみせるアレンジャーとしての確かな才覚。冨田ラボの初期の楽曲群からは、そんな教授の鮮やかな仕事ぶりを手本にしているところが多々窺えたものだった。 *桑原
〈売れる曲〉を作れる作家は山といるが、出自にAORがあるという共通項を持つ冨田恵一と林哲司は、ヒットうんぬん以上に作者特有の〈匂い〉を求められている存在だろう。杉山清貴&オメガトライブや菊池桃子といった80年代に始まり、近年の林はももいろクローバーZなども手掛けていて……あっ、ここで2人がすれ違ってる! *久保田
北園みなみやシンリズムなど、近年は若くして〈ポップ・マエストロ〉と賞される面々がちらほら登場しているが、彼らもそのひとつに数えたい現役大学生の男性デュオ。そもそも〈冨田ラボ好き〉という共通項がふたりの出会いだったそうで、この初EPには、冨田作品のAOR解釈から受けた英才教育の成果がクッキリと。 *土田
ジャズや映画音楽など、冨田ラボとはルーツも重なるソングライター=小西康陽。本作は、さまざまな歌い手を迎えて作られたセルフ・カヴァー集だ。主役は1曲を除いて裏方に徹しているものの、静謐でエレガントなサウンドは細部に至るまで当人の個性と美学に貫かれている。冨田と同様、純然たるソロ・アルバムとして享受すべき作品だ。 *澤田
近年のジャズとビート・ミュージックの相互干渉から生まれるサムシングに焚き付けられたと思しきプロデューサーがここにもひとり。みずからが歌うこの最新作では、ジャズを基調としながらもエレクトロニクスを援用した先鋭的なサウンドのポップスが展開されている。その視点は冨田恵一とも近いはず。 *澤田

テクノやビート音楽を人力で、かつ、とりわけ機械に近い感触で叩き出すジャズ・ドラマー。冨田の新作では〈プログラミングを模倣した生演奏〉も採用されているが、マークのドラミングとの出会いをきっかけのひとつとして、リズム構築に対する改革がもたらされた。電子要素が強めの本作の日本盤では、冨田がライナーノーツを執筆。 *土田
ブルーアイド・ソウルやAORなどをJ-Popに落とし込む手腕が多くのプロデュース作品を生んでいるNONA REEVESのフロントマン。音楽的嗜好が凝縮されたソロ作には共同制作に宮川弾も名を連ねているが、豪奢なストリングス・アレンジといった彼の特性にも冨田ブランドの持つ〈エレガンス〉と近い匂いが。 *土田

自身のユニット=エアプレイはもちろん、洗練されたサウンド・プロダクションを駆使してシカゴやホール&オーツなど高品質のAOR作品を連発したヒットメイカー、デヴィッド・フォスター。EW&Fなどのソウル~R&B系、マンハッタン・トランスファーといったジャズ系においても極上なポップスを仕立てる腕には冨田も一目置いている。 *桑原

昨年はジェイク・ワンとのユニット=タキシードで、ディスコ/ブギー、ブルーアイド・ソウルなど旬なサウンドに接近。そのトレンド・ウォッチャーぶりは本作でも見事でしたが、そのうえで築き上げられていく圧倒的なオリジナリティーや滲み出るポップネス、そして何より、スティーリー・ダンの後継として冨田ラボと通じ合うセンスが。 *久保田

大御所シンガー・ソングライターの最新作は、トラックメイカーのクラップ!クラップ!が参加するなど、実験的とも言えるアグレッシヴなサウンドが展開されている。ソング・オリエンテッドな作家がビート・ミュージックの最新モードに感応している!……という点で、冨田ラボの新作と同じ驚きを楽しめるのでは。 *澤田