ステレオLP初期を彩った名盤の日本初CD化。1959年の録音ながら、今回のリマスターで鮮麗な音質に蘇っている。シューベルト四重奏団は、すべてウィーン・フィルのメンバーからなり、デームスもウィーンのピアニスト。そして作曲者のシューベルトもまたウィーン人である。《ます》の明るい色彩、清冽な音楽の流れ、軽やかなリズムが、これほど自然に、気品のある美しさで再現された例は稀だろう。《ます》のあっさりとした終結の後、ハイドンの物悲しいピアノ独奏曲が続くプログラムもとても良い。まるで人生の夏から秋への移ろいのようで、日本人に相通じるウィーン人の季節感、死生観を思わせる。

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