ポップでありシュールであり癒し系でもあるエイナウディの世界
ルドヴィコ・エイナウディが再びやって来る。4月16日にはすみだトリフォニーホールでコンサートが開かれるのだが、その前には絶大な人気を誇るヨーロッパでツアーも行われ、中にはすでにソールド・アウトになっているコンサートもあるほど。日本ではまだ「エイナウディって?」という感じの音楽ファンも多いと思うのだが、そのあたりに大きなギャップを感じる昨今である2016年、ちょっと仕事を離れて音楽業界を観察していた時期に思ったのは、どうも日本には情報の偏りがあり過ぎて、最も新しい音楽的な潮流、最前線の情報が少ない、音楽もガラパゴス化しているようだということ。エイナウディの知名度の低さは、その端的な例のひとつのような気がする。
さて、気を取り直して、この素晴らしいイタリアの音楽家のことを紹介しよう。日本的に言えば、エイナウディは映画『最強のふたり』(2011年)の音楽を担当したことで注目された。1955年生まれ。これまでソロで14枚ものCDをリリースしており、通算150万枚以上のセールスを誇っている。ヨーロッパでは、ポスト・クラシカルのジャンルの代表的な作曲家のひとりとも見なされており、クラシック音楽のファンから普通のポピュラー音楽のファンまで、幅広い層に支持されている。もともとはイタリア、ミラノのヴェルディ音楽院でイタリア作曲界の重鎮であるルチアーノ・ベリオに作曲を学んだ。活動の初期には前衛的な作品も書いていたようだが、ミニマル・ミュージックを通過し、さらに独自のリリシズムと繊細な感覚を持つピアノ曲を数多く発表するようになる。それが映画作家たちの注目を集めて、イタリアなどヨーロッパ圏の映画に参加することが多い。
前回の来日の時に、インタヴューする機会を得た。ちょっと哲学者のような印象を持つ人で、淡々と難しいことを語る、そんな感じだった。
「作曲をするというのは、とても大変なこと。ひとつのインスピレーションを得るまでに、どのくらいかかるか想像もつかないので、生活は規則正しく、毎日ピアノの前に座る時間を決めて、音楽が降って来るのを待っているんだよ」
とエイナウディは語ってくれた。そして、そのひとつのアイディアをさらに様々な形で膨らまして行く。その過程で、初めて作曲家としてのテクニックの多様性が必要となる、と。エイナウディの録音をいくつか聴いてみればすぐ分かることだが、その音楽はとてもシンプルなようでいて、実は複雑な要素を多く含んでいる。それがエイナウディの魅力の秘密なのだ。
2015年にリリースされた『エレメンツ』はエイナウディのこれまでの音楽哲学を凝縮したような印象のある録音であった。この世界を構成すると古代ギリシャ人が考えた「4大要素(エレメンツ)」、ユークリッド幾何学やカンディンスキー(画家)の著作などからインスピレーションを得て作曲された12曲の作品が収録されており、これをかつての仲間である「ルドヴィコ・バンド」のメンバーと録音した。今回の来日公演も、このルドヴィコ・バンドのメンバーとのツアーであり、主な演奏曲目はこの『エレメンツ』収録作品が中心となる予定だ。
その音楽は、というと、これまでのエイナウディのピアノ・ソロ作品の延長線上にありながら、そこにより色彩感と立体感を加えたものになっている。バンド編成にも大きな意味があり、弦楽器、パーカッションなどが加わることで、音楽の「エレメンツ」がより多彩に感じられるものになっている。個人的に思ったのは、スティーリー・ダンのロック色をクラシカルに置き換えたら、こんな感じになるだろうか? ということだったけど、それは年寄りの世迷い言と思ってくれて良い。ミニマル的であり、ポスト・クラシカルの要素もあり、しかし、そこにはエイナウディ節とも呼べる透明度の高い音の世界が広がっている。これは絶対に生で触れるべき音楽なのである。来日公演を待たれよ!
LIVE INFORMATION
ルドヴィコ・エイナウディ来日公演2017
○4/16(日)16:30開場/17:00開演
会場:すみだトリフォニーホール 大ホール
出演:Ludovico Einaudi(pi)
Federico Mecozzi(vn, g, key)Redi Hasa(vc)
Francesco Arcuri(g, waterphone, perc.)
Riccardo Lagana(frame ds, perc., vib.)
Alberto Fabris(live electronics, el-b)
ゲスト:サラ・オレイン(vn)
www.plankton.co.jp/einaudi/