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NOBODY CAN SAVE US...BUT WE'LL DO!
バンドの次なる冒険、それは『One More Light』と名付けられたリンキン流のオルタナティヴ・ポップだ!

新種のポップ・エクスペリエンス

 2000年に世に出たリンキン・パークのデビュー作『Hybrid Theory』は、文字通りハイブリッド・ロックの発明品だったと言えよう。しかしこのバンドの凄さは、自分たちの手で発明したスタイルを壊したり、分解したりする冒険心を忘れないところにある。その意味において、待望のニュー・アルバム『One More Light』は、これまでの延長でも、どこかの地点への回帰でもなく、まさしく新たな発明品と形容すべきもの。そのように告げると、プロモーションのために東京を訪れていたチェスター・ベニントン(ヴォーカル)とマイク・シノダ(ヴォーカル/キーボード/ギター)は満足そうな笑顔を見せ、饒舌に語りはじめた。

LINKIN PARK One More Light Machine Shop/Warner Bros./ワーナー(2017)

 「とてもクールな解釈だと思う。俺らは常に、自分たちが馴染んできたサウンドをどうにかして新鮮なものにしようと試み続けてきた。新作ではある意味、古典的なシンガー・ソングライター然とした曲作りにも挑んでみたよ。結果、“Sorry For Now”のように、自分でも他に聴いたことのない感じの曲が出来たし、〈新種のポップ・エクスペリエンス〉と言うべきものが味わえる作品になったと思う。しかも同時に、あきらかにリンキン・パークの音に聴こえる一枚に仕上がっているんだ」(チェスター)。

 「アルバム制作に着手しようとした時点では、どういう着地点に至るかわかっていなかった。あれこれアイデアが出てくるなかで、ただただ〈この曲はどうあるべきか?〉ということだけを自分たちに問い続けたんだ。歌詞とメロディーとコード、とにかくそれを重視した。もともとはピアノとヴォーカルだけで作られていた曲もあったけれど、メロディー自体を活かすためにあえてそこからピアノを外してみたり。そうやって曲作りのフォーマットを変えながら組み立てていくことで、各曲の骨格がとても強力になったんだ」(マイク)。

 サウンド・クリエイターとしてではなく、ソングライターとしての性分――彼らが今作で重んじたのはそれだった。実際、2人の来日に先駆けて行われたインタヴューで、ブラッド・デルソン(ギター)も「ほぼ全曲が音像的なアイデアではなく、歌詞とメロディーから生まれたものだ」と明言している。さらにマイクは次のようにも話してくれた。

 「サウンドメイキングをどうするかという局面では、俺たちにとって第二の天性のようなものが働くところもある。変な話、メロディー自体が貧弱だったりすると、どうにかしてそれを良い曲と呼べるものにするため、アレンジを凝ってしまう傾向に陥りがちなんだ。ただし、『One More Light』はそうではなく、曲自体をより良くしたいと考えた。さらに今回は外部のソングライターとも共作している。特定のジャンルやスタイルを意識しながらの作曲過程ではなく、とにかく良い曲を作ることだけに集中してきたんだよ」。

 

リスキーなのは承知のうえで

 とはいえ、早期のうちからファンに愛されるサウンド・スタイルを確立できたバンドの場合、それを刷新することよりも維持していく道を選びがちだ。もちろん彼らもそれが普通であると認めている。

 「初期の頃からふたつの選択肢があった。ひとつは『Hybrid Theory』のような音楽を作り続けること。なぜならそれが有効なのはあきらかだからね。当時の俺らはまだ若かったし、それ以外にどうすればいいのかわからなかった。だから『Meteora』はその延長線上にある。だけど、それを続けていくと、永遠にそればかりを追い求めていかなければならなくなってしまう。それとは逆に、望むがままの頻度で〈違う何か〉を求め続けるという選択肢もある。それを実践してきたことによって、リンキン・パークはいまも音楽的に若々しくいられているんじゃないかな? 3枚目の『Minutes To Midnight』で初めて自分たちのフェイヴァリット・プロデューサーであるリック・ルービンと組んだ時、彼から〈どんなレコードが作りたい?〉と尋ねられ、俺たちは〈最初の2作のようには聴こえないアルバム〉と答えた。それだけが基準だった。そして彼も〈その答えが聞きたかった〉と言ってくれたんだよ」(チェスター)。

 3作目以降、彼らとリック・ルービンのタッグはしばらく続いたが、今回は2014年の前作『The Hunting Party』に続きバンドのセルフ・プロデュースとなっている。そしてここでの大胆な音楽の在り方が賛否両論を巻き起こすだろうことも、彼らはしっかり想定済みだ。

 「例えばコカ・コーラが新しいフレイヴァーの商品を出すと、みんな拒絶反応を示すだろ? 〈クラシック・コークが一番だ〉とね。音楽の嗜好にもそれと似たような部分があって、〈一度好きになったもの〉が変わっていくと、人は抵抗しがちだ。俺らの場合も作品を出すたびにそれが起こってきた。これまでさまざまな変遷を経てきたなかで、前作は純粋にアグレッシヴなハード・ロック作品だった。それに続いて、今回はこうしてポップ・アルバムを作った。〈オルタナティヴ・ポップ〉と呼ぶべきかな。リスキーなのは承知のうえだし、ノーマルなやり方ではないよね。だけど、ビートルズにしろクイーンにしろ、そういう歴史を歩んでいる。先人たちが経てきた大胆なシフトチェンジには学ぶべきところがたくさんあるよ」(チェスター)。

 そしてチェスターは、コーラの話に続いてもうひとつ例え話を披露している。

 「俺らはいつでもどこでも同じ味のものを出すファストフード店ではないんだ。むしろこのバンドは、特定のメニューで名前を知られるようになったレストランのようなもの。だけど、いつまでも〈あの料理の評判を聞いて、食べに来たんだけど……〉という人たちの要求に応えるためにやっているわけじゃないんだよ。その時に何を提供するかの判断は、シェフである俺たちに委ねてほしい。そういうことなんだ」。

『One More Light』という新メニューもまた、大きな評判を呼ぶことになるに違いない。冷めないうちに堪能したいものである。 (インタヴュー・文/増田勇一)

『One More Light』に参加したアーティストの作品。