左から、北村朋幹(C)TAKUMI JUN、郷古廉 (C)Hisao Suzuki、横坂源(C)ワーナーミュージックジャパン

〈未来の音〉ガラ・コンサートは気合の入った選曲のコンペだ!

 開館15周年を迎えた東京都目黒区の公共施設、めぐろパーシモンホールでは10年前から、新進演奏家を紹介する〈未来の音シリーズ〉を続けてきた。来年(2018年)3月21日には、これまでの出演者を集めたガラ・コンサートを開く。

 このうち山根一仁(ヴァイオリン)、横坂源(チェロ)、北村朋幹(ピアノ)の3人は今年9月、東京・代々木上原のムジカーザでも、トリオ演奏に臨んだ。コンクールや奨学金の審査員、あるいはオーケストラの定期演奏会の聴衆として彼らのソロ、協奏曲の演奏にかなり接してきたが、3人集まっての室内楽を聴いたのは初めて。それぞれが自己を主張しつつも、ソロとは異なる抑え、協調性も感じられて、なかなか楽しかった。

 彼らに郷古廉(ヴァイオリン)を加えた4人は、ドイツ語圏の音楽大学へ進み、幅広い分野の作品や様式の習得に磨きをかけた。いずれも国際水準のヴィルトゥオーゾ(名手)と呼ぶに値するテクニック、音楽性に恵まれつつも、自我のコントロールや互いの音を聴き合うゆとりにたけた新世代の日本人音楽家といえる。

左から、山根一仁(C)K Miura、毛利文香、田原綾子、上野通明(C)M Ikeda

 〈未来の音 ガラ・コンサート〉での山根はヴァイオリンの毛利文香、ヴィオラの田原綾子、チェロの上野通明とともにエール弦楽四重奏団の一員。毛利と上野も過去に同シリーズでソロリサイタルを行なっている。田原も近い将来の出演が期待される。

 曲目は、横坂と北村のデュオがラフマニノフの《チェロとピアノのためのソナタ》、北村のソロがシューマンの《ダヴィッド同盟舞曲集》、郷古は加藤洋之をピアノに迎えてルクーの《ヴァイオリンとピアノのためのソナタ》、エール弦楽四重奏団はシューベルトの《弦楽四重奏曲第13番『ロザムンデ』》と、全くもって正攻法の構えで一致する。

 はっきり言って、幸せに満ちた作曲家たちではない。ロシアのダークな情感に満ちたラフマニノフは革命後にアメリカへ渡り、ハリウッドで望郷の念に苛まれながら亡くなった。シューマンは精神に変調をきたし、悲劇的な結末を迎えた。ベルギーのルクーは20代前半、ウィーンのシューベルトは30代初めで病死した。だが、作品を書いた時点の年齢を調べてみるとラフマニノフが28歳、シューマンが27歳、ルクーが23歳、シューベルトが27歳。みな20代の青春真っ盛りの才能すべてをつぎ込み、懸命に書いた結果だ。それが何年もの時を経て愛され、生き残ってきた。ガラ・コンサートの出演者は、いにしえの若者たちの心と音の痕跡を今の同世代として思いっきり現代に再現し、未来へとつなぐ尊くも素晴らしいミッション(使命)を担っているのである。

 


LIVE INFORMATION

未来の音 ガラ・コンサート めぐろパーシモンホール開館15周年記念

○2018/3/21(水)14:30開場/15:00開演
会場:めぐろパーシモンホール 大ホール
北村朋幹(p)
シューマン:ダヴィッド同盟舞曲集 Op.6
郷古廉(vn)[p:加藤洋之]
ルクー:ヴァイオリン・ソナタ
横坂源(vc)[p:北村朋幹]
ラフマニノフ:チェロ・ソナタ ト短調 Op.19
※演奏者の希望により、当初の曲目から変更となっております。何卒ご了承ください。
〈エール弦楽四重奏団〉
山根一仁(ヴァイオリン)、毛利文香(ヴァイオリン)、田原綾子(ヴィオラ)、上野通明(チェロ)
シューベルト:弦楽四重奏曲第13番 イ短調「ロザムンデ」D.804
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