50年後にあらわれた、もうひとつの『ビッチェズ・ブリュー』
70年代以降のジャズのあるべき姿を提唱したマイルス・デイヴィスの衝撃作『ビッチェズ・ブリュー』。1969年8月19日、〈ウッドストック〉明けの時期にレコーディング、大胆なエレクトリック・サウンドを導入した傑作として1970年に発売され一大センセーションを巻き起こしたのは誰もが知るところ。その翌年、アメリカで4ch ミックス盤クアドラフォニック盤がリリース、そしてさらに翌年の1972年には日本でクアドラフォニック盤(SQ4チャンネル)が発売されるという知る人ぞ知るサウンド・ヒストリーがあった。
今回の〈SA-CDマルチ・ハイブリッド・エディション〉はそのクアドラフォニック盤のアナログ・マスターから世界初SA-CD化を行い、SA-CD 2ch 、CDもアナログ・マスターからの2018年最新マスタリングを施した日本独自企画の注目盤である。その試聴会が7月某日、ソニーの乃木坂スタジオで行われ、そのサウンドを体験する機会を得ることが出来た。エコーで飛ばされたマイルスのトランペットが四方から飛び交い、2人、もしくは3人によるエレクトリック・ピアノが左右を駆け抜け、ヴィヴィッドなリズム・セクションがファンク・ロックなビートで迫ってくる臨場感はハンパではなく、聴いている自分がこのレコーディング・ブースの中にいるのではないか?錯覚するほどのリアリティ。これぞ、マイルスやプロデューサーのテオ・マセロが伝えたかった『ビッチェズ・ブリュー』の真の姿ではなかったのだろうか。また当時、4チャンネル盤を聴ける装置を所有していたリスナーも決して多くはなかったであろうし、今回誰もが本作でこのクアドラフォニック盤の革新的サウンド・マジックを身を持って知ることになるのではと思われる。世に出てから約50年目にその全貌を現した“もうひとつの『ビッチェズ・ブリュー』”。ジャケット内部写真のマイルスの“笑顔”が清々しく、まぶしい。