坂本龍一の弾く、あの“音”に魅せられて~『坂本龍一ピアノ・ワークス3』リリース!

 坂本龍一作品をピアノで、という試み。岡城千歳の久々のアルバムは、3枚目の坂本龍一作品集。中心に据えられているのは《ブリッジ》で、この曲から、ほかのものも選んでいった、という。

岡城千歳 坂本龍一ピアノワークス3、トリビュートアルバム In Appreciation & Admiration Chateau/King International(2018)

 「《ブリッジ》はヨージ・ヤマモトのショウ、1995年のパリ・コレ、婦人服のショウのためにつくられた音楽です。坂本作品のなかでも、もっとも長大なピアノ・ソロ曲ではないかしら。はじめは音楽としてのみ、聴いていました。そしてリサイタルで演奏することに。試行錯誤し、納得がいったところで録音しました。それから随分経って、実際のショウの映像をみる機会があったのです。服の色の変化と音楽の変化がシンクロしている。あの雰囲気、あのテンポ、あのドレスであの音楽、とわかることがあったのです。もし先にショウをみていたら、影響を受けてしまうから曲と切り離すことができなくなってしまったのでは。音楽のみで、に意味があるのではないでしょうか。

 はじめの6分ほど、プリペアド・ピアノがつかわれています。コンサートではそれが再現できなかった。それで新曲《坂本龍一へのオマージュ》の作曲を坂本氏に相談したんです。MIDI音源のチェレスタをつかってみました。ほんもののチェレスタとはまたべつの独特なところがあるんです。輪郭のぼやけ方が、水のなかに墨や絵の具をおとしたような、というんでしょうか。はやいパッセージを弾いても、ピアノとはぼやけ方が違っている。あるいは、ノイズを含んだ衝撃音。サンプリング音源だからこそありうる音、がここにはあります。

 このアルバムはコンサートの録音に手を加えています。レコーディングとライヴとはべつのもの。これだけ演奏したのに、マイクはひろってくれていない、ということが多々あります。コンサート/ライヴでの演奏とはべつに、マスタリング/エディティングという〈演奏=解釈〉があると考えています。録音は何回も聴くので構造がみえてしまうでしょう? 絵を眺めるように曲を眺めることができる。坂本龍一の弾く、あの〈音〉。あの人の曲をやりたい、とおもったし、やりつづけています。たとえ有名であってもおもしろくない演奏はいくらもあります。坂本龍一のピアノはそうではないのです。冒頭のプリペアド・ピアノとチェレスタのみならず、テンポや音色も、当然、坂本龍一とは違います。でも、そうした改変も坂本さんご自身が許してくださったし、エールを送ってくださった。今回で3枚目ですが、まだまだ継続するつもりでいます。もちろん」