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【Pop Style Now】第43回 アラバマ・シェイクのブリタニー・ハワード、ジュリアン・ベイカー秘蔵の名曲など、今週の洋楽ロック5曲

【Pop Style Now】第43回 アラバマ・シェイクのブリタニー・ハワード、ジュリアン・ベイカー秘蔵の名曲など、今週の洋楽ロック5曲

天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。ちょっと前に話題にした、トム・ヨークの新作『ANIMA』がサプライズ・リリースされましたね」

田中亮太「僕としては、これまでのアルバムより〈踊れる〉作品になっていたのがよかったです。正直、過去のソロ作はグルーヴという面では弱い印象だったけど、今回はそこを挽回しましたね。ライターの小熊俊哉さんもそんなふうに言ってました」

天野「Netflixで公開された、ポール・トーマス・アンダーソン監督のショート・フィルムも注目されていますね。そんな『ANIMA』はダウンロードとストリーミングで発表されましたが、フィジカルは7月19日(金)に、日本盤は先行して17日(水)に発売。ぜひお近くのタワーレコードかオンラインでお求めくださいね!」

田中「結構アナログっぽい音が活かされたプロダクションなので、レコードでも聴きたくなった方も多いのでは? そんな方はTOWER VINYLで! ……宣伝はさておき、今週の〈PSN〉はロックがテーマの5曲です。まずはプレイリストと〈Song Of The Week〉から!

 

Brittany Howard “History Repeats”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はブリタニー・ハワードの“History Repeats”です。彼女は米アラバマ州アセンズ出身のロック・バンド、アラバマ・シェイクスのヴォーカリストですね」

田中「アラバマ・シェイクスといえば、2015年のセカンド・アルバム『Sound & Color』が記憶に新しいかと思います。同作は第58回グラミー賞で6部門にノミネートされ、4部門で受賞という快挙を達成。結果、世界的なバンドにのし上がりました」

天野「彼女たちの魅力は、レッド・ツェッペリンのような60~70年代のロック・バンドを彷彿とさせる音楽性やパワフルな演奏ですよね。ただ、バンドを特別な存在に押し上げたのは、『Sound & Color』での音作りでした。ブレイク・ミルズのプロダクション、そしてショーン・エヴェレットのエンジニアリングとミキシングによるマジカルな音像は、何度聴いても刺激的!」

田中「ルーツ・ロック的なオーセンティシティーとモダンな音作りの絶妙な配合が成功の要因と言えるでしょうね。そんな『Sound & Color』での試みは、このハワードのソロ・シングルでも聴けます。ファンキーなギターが特徴的な一曲ですが、ヴォーカルの妙にザラついた質感と立体的なドラムの音像がかっこいいです! ちなみに、この曲はハワードのセルフ・プロデュースだとか」

天野「〈ボンボン〉って鳴っているティンパニっぽい太鼓の音が印象的ですよね。歌詞は政治的な意味合いが強そう。ちょっとシニカルですが、〈歴史は繰り返し、私たちはまた自分たちを打ち負かす/さあみんな、もう一度〉というフレーズがチャントのように繰り返されます」

田中「この“History Repeats”が収録されるハワードのソロ・アルバム『Jaime』は9月20日(金)にリリース。亡くなったお姉さんに捧げた作品だそうです。どんなサウンドが聴けるのか、楽しみですね」

 

Lucy Dacus “Forever Half Mast”

田中「2曲目はルーシー・ダカスの“Forever Half Must”。彼女はフィービー・ブリジャーズ、ジュリアン・ベイカーと結成したボーイジーニアスのメンバーとして、日本でも知られるようになりましたよね」

天野「他の2人と比べると、ここ日本での知名度が低い気もしますけど、ダカスの音楽ってすっごくいいんですよね」

田中「そうなんです。昨年、彼女がリリースしたアルバム『Historian』は僕も愛聴していました。味わい深いフォーキーなメロディーと、力強いオルタナ・サウンドが見事に合わさっていて。ボーイジーニアスのメンバーのなかでは、ロック寄りの志向性を持ったミュージシャンなのかな」

天野「彼女は今年、祝日に新曲をリリースしているんですよね。ヴァレンタイン・デイにはエディット・ピアフの代表曲“La Vie En Rose”のカヴァー、母の日には新曲の“My Mother & I”を発表していて、この“Forever Half Must”はアメリカ独立記念日の曲というわけです」

田中「ペダル・スティール・ギターの音が効果的で、曲のテーマに合わせているのか、アメリカーナな趣のサウンド。とはいえ、単純なアメリカ賛歌ではなく、むしろ祖国へのアンビヴァレントな気持ちが率直に歌われていて……」

天野「〈この曲はアメリカ市民と消費者が逃れられない責任についてのもの〉と言っていますね。アメリカが主導するグローバル資本主義への批判を込めている、と言えそうです。軽快な曲調に反し、〈Let your flag fly at forever half mast(永久に半旗のままでいよう)〉という歌詞が印象的で、アメリカを誇りに思いつつ、同時に恥じてもいる、というダカスの心情を表しているんでしょうね」

 

Julien Baker “Red Door”

天野「続いてはジュリアン・ベイカーの“Red Door”。ルーシー・ダカスに続いて、ボーイジーニアスのメンバーが登場です」

田中「別にねらったわけではないんですけどね。この“Red Door”は、何年も前からライヴで披露されていたもので、正式なレコーディングはされていないながらも、ファンの間では〈秘蔵の名曲〉と言われていました」

天野「昨年の来日公演でも歌われていましたね。そんな名曲が、今年の〈Record Store Day〉で遂に7インチ・シングルとしてリリース。その後、配信もスタートしたというわけです」

田中「弾き語りを中心に据えつつ、鍵盤やペダル・スティールを繊細なタッチで重ねていますね。ギターのフレット・ノイズまで捉えた生々しい録音も素晴らしい。打楽器も要所要所で鳴っていて、曲のダイナミックな抑揚を作っています」

天野「〈道の真ん中で火を放つために渋滞へと飛び込む/膝を曲げて血だらけの拳で地面に色を塗る〉というリリックは、彼女がたびたびモティーフにしている事故事故で瀕死に陥った経験についてのものでしょうか」

田中「常に〈死〉と隣り合わせにあるという感覚が、聴き手と彼女の音楽との間に特別な結び付きを生みだしていると思います。そういえば最近、ジュリアンは、1年前にフロントマンのスコット・ハッチソンを自死で失ったフライトゥンド・ラビットというバンドのトリビュート企画に参加していて、“The Modern Leper”という曲をカヴァーしているんです。思えば、彼らもファンとそうした関係を築いてきたバンドだったなと……。“Red Door”とカヴァーを聴いて、しみじみと思っちゃいました」

 

Marika Heckman “the one”

田中「4曲目はマリカ・ハックマンの“the one”。彼女はイギリス、ハンプシャー出身のシンガー・ソングライターで、2017年にリリースしたセカンド・アルバム『I’m Not Your Man』が人気を集めました」

天野「ロンドンのガールズ・バンド、ビッグ・ムーンをバックに従えた録音、というのも話題でしたよね。〈ニルヴァーナ×ウォーペイント〉って感じのグランジ・サウンドがかっこよかったです」

田中「この“the one”は、8月9日(金)にリリースされるニュー・アルバム『Any Human Friend』からのリード・ソング。共同プロデューサーとしてデヴィッド・レンチがクレジットされていますね。フランク・オーシャンやXXの作品に関わってきた鬼才で、最近はオーディオブックスというストレンジなダンス・ポップ・ユニットのメンバーとしても活動しています」

天野「彼のプロダクションのおかげか、ダンサブルなビートの曲ですね。カラフルで、ちょっとユーモラスな音作りになっていて、掛け声やコーラスの挿入も凝っています。聴いていて飽きない作り込みっぷりがおもしろいです」

田中「彼女も〈自分が作ってきたなかで、もっともポップな曲〉だと語っています。この変化はすごく興味深いし、新作でポップ・フィールドでもブレイクしそうな予感!」

 

Pallbearer “Atlantis

天野「今週最後の一曲はポールベアラーの“Atlantis”です。〈PSN〉ではなかなかメタルを紹介できていないのですが、もちろんメタル嫌いというわけではありません!」

田中「今週はロック回なので、メタルも入れたかったんですよね。というわけで、米アーカンソー州リトルロック出身のドゥーム・メタル・バンド、ポールベアラーです。デビュー・アルバム『Sorrow And Extinction』(2012年)の発表以降、PitchforkやStereogumといったインディー系メディアからも高く評価されています」

天野「3作目の『Heartless』(2017年)も傑作でした! そもそも〈ドゥーム・メタルとはなんぞや〉という話をしておきます。超簡単に説明すると、ブラック・サバスの影響下にある、重くて遅くてダウナーなメタル。西山瞳さんが連載でいつも紹介されているような、速くてテクニカル、かつ様式美を大事にするようなメタルとはだいぶ異質なジャンルで……」

田中「〈速い、巧い、華やか〉ではなく〈遅い、重い、暗い〉ということでしょうか。そんなドゥームの新鋭であるポールベアラー。2018年に発表した“Dropout”ピンク・フロイドのカヴァー“Run Like Hell”に続く新曲がこちらです。ヘヴィーなのは確かですが、親しみやすいメロディーに軽やかなギター・ソロと、意外にもポップですね。個人的にはアリス・イン・チェインズなんかを聴くのと同じ耳で聴けるなーと思いました」

天野「確かに。それと、プログレッシヴ・ロックから影響を受けているドラマティックな展開や曲の構造も彼らの魅力です。聴いていると、迷宮に迷い込んだ感覚になります。ちなみに、この曲はサブ・ポップのシングル・シリーズの一つで、アルバム用ではないとのこと。最後にまったく関係ありませんが、最近のメタル・アルバムのおすすめは、〈PSN〉でも紹介したバロネスの『Gold & Grey』です! ちょうどいまポールベアラーはバロネスのツアーの前座もyっているので、モダンなメタルに興味のある方はぜひ聴いてみてほしいです」

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