LOVE 4EVER AND IT LIVES IN...
[ 不定期連載 ]プリンスの19XX年
昨年の『Piano And A Microphone 1983』に続くプリンスの新たな音源集『Originals』——キャリアを通じて多くのアーティストに提供されてきたプリンス製ナンバーの、作者自身の歌った〈オリジナル・ヴァージョン〉集が登場した。ここにはデモや仮歌という用途でアーティストの手元に渡った音源たちが収められているわけだが、そもそも彼自身がデモ段階で作り込みを整えているため、単に貴重なアーカイヴというだけじゃなく、純粋に聴いて楽しめる一枚となっているはずだ。
PRINCE 『Originals』 NPG/Warner/ワーナー(2019)
今回はそんな作品のリリースに合わせて、限られた時間ながらもスザンナ・メルヴォワンへのインタヴューが実現した。プリンスの革命史を語るうえでの最重要人物に才能豊かなマルチ・ミュージシャンのウェンディ・メルヴォワン&リサ・コールマンを挙げる人は多いと思うが、スザンナはそのウェンディの双子の姉妹である。さらにはプリンス作の名曲“Nothing Compares 2 U”(85年)を最初に世に出したザ・ファミリーのメンバーでもあり、何より彼の交際相手としても知られた人だ。その“Nothing Compares 2 U”のプリンス版(84年録音)は今回の『Originals』に収められているが、その段階で彼女がバック・ヴォーカルを担当しているのだから、当時の親密な関係も窺い知れよう。
そもそもスザンナは音楽一家の育ちで、姉妹の父はジャズ・ピアニストのマイク・メルヴォワンである。そんなマイクとレッキング・クルーの同僚でもあったのが先述したリサの父であるパーカッショニストのゲイリー・コールマンで、私生活でも交流の深かった両家の縁が、巡り巡ってスザンナとプリンスを引き合わせることになった。
もともと80年にプリンスのバンドに加わったリサを経由して、83年にはウェンディがレヴォリューションに加入、プリンスはその姉妹としてスザンナと出会う。当時の彼女はクインシー・ジョーンズの庇護下でスタジオ仕事に関わりはじめていたが、『Apollonia 6』や『Around The World In A Day』などへの貢献を経て、先述のザ・ファミリーに抜擢されることになった。もともとファミリーは、映画「パープル・レイン」で敵役として人気を博したザ・タイムの空中分解を受け、その残党を中心にプリンスが新たに組ませた後継バンドである。85年に登場したその初作『The Family』は、クレジットをごまかしつつ実際はプリンスがほぼ全曲を書いて演奏したものだったが、そのなかで唯一自身の名を正しくクレジットしたのが他ならぬ“Nothing Compares 2 U”だった——以上、ここまでが前置きです。