Page 2 / 3 1ページ目から読む


【6曲目“1分で”】

「さっきの“FIRE STARTER”で主人公を炎上させてた奴らもいるわけで、そいつらを叩きのめすために、次はこういうのをポンと用意して。〈かかってこんか~い〉ってやしきたかじん入ってたでしょ(笑)。K-A-Zにこの曲を投げたら2つギターが入ってて、片方はリフ、もう片方はずっとソロやったんですよ。それが来た時は〈おもろ~!〉と思って」

西山「しかも1分でバチっとオチがついて、お見事!」

「余韻まで入れたら1分2秒ぐらいになってしまったんやけど。『あしたのジョー』の力石徹の名言〈1ラウンドじゃねえ、1分だ〉ですよ。だって僕の入場のテーマは“力石徹のテーマ”ですからね(笑)。例えばライブで2、3分余ることがあるんですけど、そういう時にこの曲使えるなと思ってます。グワーっとやって終わる!」

西山「使えるし盛り上がる!」

 

【7曲目“大人の子守唄”】

西山「ライブでこういう曲もやるんですか? 裕次郎気取りというか(笑)絶妙な古さとリアルさがいいですよね」

「スナックの歌なんですよね。カウンターのママとお客さんとの物語。今回はレコーディングが大阪だったんですけど、その時はまだ歌詞が出来てなくて。西成の商店街のスナックに通りかかったらママとおっさんが歌ってるんですよ。その様がなんか良くて、〈こういう光景まだ日本にあるねんな、よしスナックの曲書こう!〉って。そういうところに癒されてる人もいっぱいおるわけで。ま、この歌詞のお客さんは迷惑な人なんですけどね(笑)。帰ろうとしないし、〈ここで眠らせてくれ〉って言って。ママからしたら〈はよ帰ってくれよ〉でしょうけど。そういうのもあって、この曲は特にクセ強めに歌いました」

西山「これ、普通にピアノで伴奏したら場末のスナックにピッタリの曲ですよね。“氷雨”みたいな演歌がメタルになったみたいで」

「ストリングスも入ってますからね。ミラーボールが回ってる感じで」

西山「冠さんのファンの方は、年齢的に〈銀座の恋をハモりましょう〉なんて歌詞わかるんですか? 私の年齢的にも世代ではないですけど、20代の頃に場末のクラブで死ぬほど弾いていて。“ボヘミアン”とか」

「どうだろうな~(笑)。いま〈ボヘミアン〉って言ったら、『ボヘミアン・ラプソディ』のほうやのにね。あのしゃがれた声でスナックからの“ボヘミアン”。この曲は終わり方も“天国への階段”(レッド・ツェッペリン)のようにして。声のかすれ具合とか、絶妙に残る感じとかは、実は何回も録り直していて。いい感じの汚さとか、ざらつきになるように意識しました。そんなところ誰も気付かないでしょうけど」

 

【8曲目“だからどうした”】

「毎回アルバムに何曲か入ってる、熱い感じの歌。年を重ねて、目も悪くなっていって、余計なものを見なくてよくなったとか、年を重ねることも悪くないっていう歌ですね。だからどうしたって言われるかもしれないけど、大人のおじさん、おばさんに響いてくれたらうれしいし、若い人たちにも大人って楽しそうやなって思ってもらえるかなって」

西山「老いの話でも、全然自虐じゃないですもんね」

「そうです。自虐というより大人の応援歌です。これも1番と2番でアレンジが全然違くて」

西山「いやー、これやっぱりバンドの方、ライブで暗譜すること考えたら大変ですよ……」

「冠バンド、実はどのメタルバンドより難しいかもしれない。速さとかじゃなくて、構成とか、間のフレーズとか、細かさとか。コピーしにくいと思います」

西山「メタルって基本同じことを繰り返して、強くしますもんね」

「そういうのは全然やらないですから。メタルファンは繰り返したほうが好きなんかなとか思いながらも、聴いてて1番と2番一緒なのはあんまり好きじゃない。だからアレンジは変化していても、サビのメロディーを変えないことで辻褄合わせていけたらいいかなって」

編集部酒井「メタルって、結構マナーがあるじゃないですか。その一方で、こういう〈老い〉みたいなテーマ的にも、さっきの演歌みたいな曲調的にも、何にでも合う大人の余裕みたいなのもありますよね」

「例えばBABYMETALでも型破りな曲いっぱいありますよ。ミクスチャー・ロックとかインド風とか。いろんなことをメタルでやっていいと思うんですよね。僕の場合は、歌謡曲みたいに好きなものを全部取り入れてメタルに昇華して出したい。いわゆる直球のメタルだけだと、聴いていても僕自身が〈またこの感じ?〉って思っちゃうし」

西山「ジャズもそうなんですけど、型が好きな人もいるし、骨子がしっかりしていたら何やってもいいと思う人もいるんですよね。ファンの中には骨子を見ずに外側だけ見て、〈これはジャズじゃない〉〈これはメタルじゃない〉って言う人も多いと思います。勿論、型も大事です。でもその型を乗りこなせる余裕も格好良い。冠さんの音楽はどれを聴いても骨子の部分でめっちゃメタルに真面目だから、だから皆好きになるんですよ」

「真面目さはありますよ」

西山「だから歌詞でどれだけ遊んでいても、そういう芯の部分はちゃんと聴いてる人には絶対伝わる」

「やっぱ好きですからね。なんやかんや言いながら、メタルの愛が詰まってますから」

西山「そういうところにグッとくるんです!」

 

【9曲目“FALLING DOWN”】

「滑ってますね(笑)」

西山「あ、これ滑ってる上司の歌だ。今回引用がすごく多く感じるんですけど、いつもより多いですか? 歌詞もアレンジもいろんなオマージュが感じられますけど」

「そこまでは意識してないですけど。これは“Sad But True”(メタリカ)とかコーンとかに近いヘビーなテンポです。この曲のエンディングなんて“Sad But True”ですからね」

西山「聴く人が聴けばわかるから楽しいですよね」

「そうですね。最初はバラードみたいな曲だったんですけど、いろんな要素を埋め込んでもっとヘビーな方にしたんです。そしてまさかの〈ぴえん〉で終わるという(笑)」

西山「冠さんのこの声で、ぴえんって(笑)」