Page 2 / 4 1ページ目から読む

最高到達点を越え、さらにその先へ

――コロナ禍のなか、EASTOKLABと日置くんはどのように過ごしていますか?

「ライブがなくなったので、練習する意味がなくなっちゃって。〈どうしよう?〉という流れから、以前とは全然ちがうことをやっています。メンバー全員がシンセサイザーやパッドを使って、ガチガチのダンス・ミュージックを作っているんです。もう録りはじめているんですよ。発表するかどうかはわからないけど、実験としておもしろいので。何にもならない可能性もあるんですけどね。自粛期間が明けたら、EASTOKLABとその〈EASTOKLAB(○○)〉とのツーマン・ライブをやりたくて(笑)」

――それはおもしろそう(笑)。新作にもダンサブルな曲がありましたし。『Fake Planets』の制作はいつスタートしたんですか?

「前作(『EASTOKLAB』)を完成させた後ですね。本当に手応えがあって、やりきった、やってきたことが実を結んだっていう感触があったんです。デビュー・アルバムということもあって、気合いを入れて細かいところまで気にしながら完成させたので、自分の年齢とかも含めて、最高到達点だったと思います。〈芯〉のようなものが出来たので、同じ手法ではもうこれ以上突き詰められないし、同じことを続けるのはつまらないなと思いました。

なので、しばらくは何も考えずスタジオに集まって遊んで、その流れから曲作りが始まったんです。前作の反動で、めちゃくちゃ適当にやりたくなって(笑)。カチッと固めたものを壊していくことから始まったんですね。ダンサブルな“Ten”やギターがカッティングしている“Stud”のような曲は、いままでだったら絶対に作らなかったと思います」

2019年作『EASTOKLAB』収録曲“Fireworks”

――前作でひとつのスタイルを打ち立てたので、一度ゼロに戻った? 〈これ以上行けない〉というデッドエンドな感じもあったんですか?

「〈ゼロに戻る〉というよりは、一度〈100〉まで行って、そこで頭打ちを食らったので、その〈100〉を超えるためにいろいろなことをやったのかなと思います。

もっと新しくて、もっとかっこいいものって何だろう? そういう意識は、メンバー共通のものとして持っていたと思います。僕らはセッションで曲を作るので、もっとゾクゾクや高揚感を味わいたい。一度完成したものには、やっぱりゾクゾクしないんです」

 

ミスマッチのかっこよさもバンド・マジック

――前作についてのインタビューやcinema staffの辻友貴さんとの対談で、バンド・アンサンブルの身体性、肉体性を大事にしていると語っていました。今回は、それがより録音に出ていると思います。特にギターに顕著で、前作では他の音や空間と溶け合うようなフレーズを弾いていたのに、今回はカッティングしていたり、音が歪んでいたりと、だいぶちがいますね。

「いままでだったら僕が〈ノー〉って言っていたようなことが、まったくなくなったんです。ギターの西尾(大祐)くんがバンドに入ったとき、僕は冗談で〈カッティングとかしたら殴るから〉と言っていたらしくて(笑)。〈まさかこのバンドでカッティングができるとは〉と西尾くんが言っていました」

――あはは(笑)。

「セッションで曲を作るときはメンバー全員の瞬発力が重要なので、本当に〈筋肉〉が必要で。前作を作ったことで、各々〈筋力〉が一気に強くなったことで武器が増えて、いままでになかった引き出しを開けてもすぐに対応できるようになりました。新しいアプローチに対して、対応できないから〈ノー〉と言っていたのかもしれないって気づいたんですね」

――まるでアスリートのような話(笑)。

「いままでは4人が1つの方向に向かって動いていく感じでした。でも、ミスマッチになった瞬間のかっこよさもバンド・マジックなんだなってことに気づけて。

前作は〈自分たちのストロング・ポイントを全部出そう〉っていうテーマがあったので、必然的に曲に沿ったアレンジのイメージが出来上がっていて、そこに向かってみんなでトライしていく感じだったんです。今作はそもそも青写真や明確なイメージがないところから始まって、自由に何も考えず遊んでいたので、こういうふうになっていったのかなと思います」

『Fake Planets』収録曲“Contrail”