Casper Mágico, Nio García, Darell, Nicky Jam, Ozuna & Bad Bunny “Te Boté (Remix)”(2018年)
“Te Boté (Remix)”は、現在のレゲトン/ラテン・トラップのスターたちが一堂に会した超重要曲。なので、この楽曲から始めたい。
もともと“Te Boté”は、カスペル・マヒコ、ニオ・ガルシア、ダレルが2017年12月にリリースしたシングル。3人はプエルトリコのラッパー/シンガーで、2010年代から活躍しはじめたレゲトン/ラテン・トラップの旗手と言っていい存在だ。
“Te Boté”自体ヒットした曲だったが、ニッキー・ジャム、オスナ、バッド・バニーを迎えた総勢6人のオールスターによるこのリミックス・ヴァージョンが翌年4月に発表されたことで、さらにヒット。全米チャート(Billboard Hot 100)で36位を記録した。
オスナとバッド・バニーは後述するので措くとしよう。ニッキー・ジャムは他の5人よりも一回り上の世代の大物アーティストであり、さらにアメリカ人である。“Te Boté (Remix)”がアメリカでヒットした背景には、彼の力を借りたことも大きいだろう。
曲調はシンプルなレゲトン。だが、バッド・バニー→ダレル→カスペル・マヒコ→オスナ→ニオ・ガルシア→ニッキー・ジャムと次々にバトンを渡していくマイク・リレーは圧巻。それぞれのスタイルやヴォーカリゼーションが強調された、めくるめく展開も素晴らしい。いまのレゲトン/ラテン・トラップを知るための最良の一曲と言いたい。
なお、〈te boté〉は〈捨てた〉の意で、恋愛における別れを歌った曲であるようだ。
Bad Bunny “Soy Peor”(2016年)
すでに何度も登場しているバッド・バニーは、プエルトリコのベガバハ出身のアーティストで、ラテン・トラップの世界において最大のスターの一人。その独特の歌声やフロウ、ファッショナブルなたたずまい、そして彼の音楽とファンダムが、ラテン・トラップというジャンルの存在感を押し上げたことはたしかだろう。
初期のシングル“Soy Peor”は、彼にとってブレイクスルーのきっかけになった曲だ。トラヴィス・スコットのようなアトランタのラッパーからの影響が顕著なラテン・トラップ・スタイルを聴くことができる。
この路線はデビュー・アルバム『X 100PRE』(2018年)まで続き、同作は大半がラテン・トラップの曲で占められている。そして、アルバムからのシングルであるダンス・ポップ調のレゲトン“MIA”でドレイクとタッグを組み、北米で大きな成功を収めた。
バッド・バニーはその後、J・バルヴィンとの『OASIS』(2019年)、そして『YHLQMDLG』(2020年)というレゲトン路線の傑作をものにし、さらに今年、前述のスーパー・ボウル・ハーフタイム・ショーに出演して話題をさらった。5月には未発表曲のコンピレーション『LAS QUE NO IBAN A SALIR』を発表しているが、一方で引退をほのめかしている。果たして、どうなることやら……。
このジャンルの特徴で、バッド・バニーにはアルバムに収録されていないシングルもたくさんある。私のお気に入りは、売れっ子プロデューサーのタイニー(Tainy)が手掛けた切ない“Callaíta”(2019年)だ。
J Balvin & Willy William “Mi Gente”(2017年)
コロンビアのメデジン出身であるJ・バルヴィンはバッド・バニーと並ぶヒットメイカーで、〈レゲトンの王子〉の異名を持つ。レゲエ色の強い初期のヒット・シングル“6 AM”(2014年)以降、ラテン・シーンを代表するアーティストになっていった。
“Mi Gente”は彼の名を知らしめた、最大のヒット曲のひとつ。一度聴いたら忘れられないリフレインが特徴だ。フランス人DJ/プロデューサーのウィリー・ウィリアムと作り上げた曲で、アルバム『Vibras』(2018年)に収録されている。レゲトンのリズムだが、ウィリアムの手で力強いダンス・ナンバーに仕上がっている。この曲からはリミックスもたくさん生まれた。
今年5月には村上隆のアートワークが印象的なアルバム『Colores』を発表。bounceによるインタビューも、ぜひチェックしてほしい。
Karol G “Mi Cama”(2018年)
カロル・Gも、現在のシーンで強烈な存在感を放っているレゲトン・シンガーだ(出身地はJ・バルヴィンと同じコロンビア・メデジン)。昨年11月にリリースした、ラッパーのニッキー・ミナージュとのポップな“Tusa”で国際的な注目を集め、日本でもファンを増やしている。
セカンド・アルバム『Ocean』(2019年)からのシングルであるこの“Mi Cama”は、カロルの艶めかしい歌や洗練されたレゲトン・サウンドが印象的。USのラテン・チャートでは6位を獲得した。ちなみに、曲名の〈mi cama〉とは〈私のベッド〉という意味だとか。
そのアイコニックな存在感と唯一無二の歌声でもって、アメリカや世界を舞台に今後もっと躍進していくはず。これからのさらなる飛躍にも期待だ。
Anuel AA, Daddy Yankee & Karol G feat. Ozuna & J Balvin “China”(2019年)
そのカロル・Gの恋人であるアヌエル・AAは、プエルトリコのカロリーナに生まれたアーティスト。2人は“Secreto”(2019年)や“Follow”(2020年)といった共演曲を発表している。
“China”にはそのカロルが客演しており、さらに大先輩のダディ・ヤンキー、そして世代の近いオスナとJ・バルヴィンが参加。“Te Boté (Remix)”に似たオールスター・ソングだ。タイニーによるテンポの速いレゲトン・ビートにはEDM/エレクトロの意匠が織り込まれており、ダンス・ミュージックとして楽しめるサウンドも特徴。さらにレゲエ・シンガー、シャギーのヒット・ソング“It Wasn’t Me”(2000年)という大ネタ中の大ネタを引用しているところもポイントである。
ここで選んだ曲はレゲトンだが、そもそもアヌエル・AAはラテン・トラップをけん引してきたアーティスト。アメリカのラッパーとの共演も多く、シックスナインとの“Bebe”(2018年)、ファット・ジョーとカーディ・Bとの“Yes”(2019年)、故ジュース・ワールドとの“No Me Ame”やリル・パンプとの“Illuminati”(いずれも2020年)などがある。アメリカのラップ・ミュージック・シーンでも注目されている存在と言えるだろう。