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1. MARINA “Man’s World”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はマリーナの新曲“Man’s World”! 彼女はウェールズ出身のシンガー・ソングライターです。もともとは〈マリーナ・アンド・ザ・ダイアモンズ〉として活動していたので、そちらの名前に聞き覚えのある方もいるのでは。彼女は、クリーン・バンディットとのコラボレーションでも有名ですね。マリーナ名義では2018年にアルバム『Love + Fear』をリリース。同作は高く評価されました」

田中「ダンス・ポップを得意としつつも、節回しや声質には少しアクがあって、おもしろい存在ですよね。フローレンス&ザ・マシーンとデュア・リパの間に位置する存在、という印象です」

天野「わかるような、わからないような……。彼女はギリシア人の血を受け継いでいるので、そういう出自がウェールズのアーティストらしからぬムードとして表れているのかも。さて。この曲は、近い将来にリリースされるであろう新作からのリード・シングルのようです。アルバムは女性のみで構成されたクリエイティヴ・チームで制作されたそうで、プロデューサーはバット・フォー・ラッシズやハインズなどの作品で知られるジェン・デシルヴェオ。エンジニアのエミリー・ラザーは、2017年のベック『Colors』で女性として初めてグラミー賞の最優秀エンジニア・アルバム賞を受賞した方です」

田中「鍵盤やストリングスがすごくエモーショナルで、マリーナの粘り気のある歌声とマッチしていますよね。あと、ギターのハードなサウンドもすごく効いています。なので、まずポップソングとしてよく出来ているなと。とはいえ、なにより歌詞がすごい。最初のパートからセイラムの魔女裁判を引き合いに出していますが、女性や同性愛者がマチズモ的な世界のなかでいかに虐げられ、不当な扱いを受けてきたのかを、痛烈な怒りをもって綴っていきます」

天野「マリリン・モンローが滞在したことでも知られるビバリーヒルズ・ホテルの現在の所有者が、同性愛者を処刑対象にするブルネイの国王、ハサナル・ボルキアであることなんかも歌詞のなかで言及されています。〈もう男の世界では生きたくない〉と歌うサビは強烈です」

田中「僕たち男性にとっては自省を促される一曲ですが、いまの時代に歌われるべきシンボリックな楽曲だと思います。この曲は、これ以降もムーナ(MUNA)やエンプレス・オブ(Empress Of)といった女性アーティストによるリミックスがリリースされていくようです。マリーナの動きは、注目しておいたほうがよさそうですね」