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際立つ存在感と無限の可能性――南ロンドン・シーンから見たブラック・カントリー・ニュー・ロード
by 近藤真弥

イギリスの7人組、ブラック・カントリー・ニュー・ロードは、注目を集めている南ロンドンのロック・シーンにおいて、無視できない存在感を放つバンドのひとつだ。前身バンドのナーヴァス・コンディションズ時代から、7人はウィンドミルという南ロンドンのライブハウスで場数を踏み、同会場が拠点のバンドやアーティストたちと親交を深めてきた。

なかでもブラック・ミディとの交流は盛んだ。昨年12月にもウィンドミルへ捧げるドネーション・ライブを共催し、仲の良さをアピールした。このコラボレーションは以前からたびたびおこなわれており、過去にはエルトン・ジョンの“Goodbye Yellow Brick Road”をカヴァーするなど、自由奔放なパフォーマンスが売りになっている。


ブラック・カントリー・ニュー・ロードとブラック・ミディのコラボレーション・バンド〈Black Midi, New Road〉のウィンドミルでのライブ映像

そんなBCNRがプロデューサーのダン・キャリーと仕事をしたのは必然だったのかもしれない。カイリー・ミノーグのヒット・ソング“Slow”(2003年)やケイ・テンペストのアルバム『Everybody Down』(2014年)など、これまで多くの作品を手がけたダンは、南ロンドンのロック・シーンに近いバンドと積極的に関わってきた。ゴート・ガール『Goat Girl』(2018年)とブラック・ミディ『Schlagenheim』(2019年)のプロデュースを務め、レーベル〈Speedy Wunderground〉の主宰としても、ティーニャやスクイッドの作品を扱っている。このように南ロンドンのロック・シーンをサポートしてきたダンは、BCNRにも当然目をつけた。BCNRのファースト・シングル“Athen’s, France”をプロデュースするだけでなく、それを〈Speedy Wunderground〉からリリースしたのだ。

『For the first time』収録曲“Athen’s, France”

ダンを筆頭に、多くの支持を得ているBCNRは、無限の可能性を持つバンドだ。その音楽性にはヘヴィー・メタルからマス・ロックまで、さまざまな要素が溶け合っており、バンドのメンバーであるジョージア・エラリーがテイラー・スカイと結成したジョックストラップ(Jockstrap)みたいに、ワルツ要素が濃いエレ・ポップをやりだす未来もあり得る。そうした想像をさせるほど、BCNRの音楽的背景は実に多様だ。

この多様さは、南ロンドンのロック・シーン周辺の他バンドと比べても際立っている。彼らの音楽が今後どうなるのか、筆者も予想できない。

ジョックストラップの2020年作『Wicked City』収録曲“Acid”